浮世親仁形気(読み)うきよおやじかたぎ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「浮世親仁形気」の意味・わかりやすい解説

浮世親仁形気
うきよおやじかたぎ

江島其磧(きせき)の浮世草子。1720年(享保5)八文字屋(はちもんじや)八左衛門・江島屋市郎左衛門刊。5巻15話。老人特有の性癖――頑固・吝嗇(りんしょく)・息子自慢などと、不相応な性癖――色狂い・力自慢・殺生など、「変り変りたる親父どもの気質(かたぎ)」(序)を誇張して描き、そこに笑いを求めた作品。常識を越える一徹さの多くが町人社会の日常生活に密着したものだったので、それに伴って惹起(じゃっき)される悲喜劇も相応のリアリティを保ちえた。その際、作者は、遊び好きの親父と律儀な息子(巻2ノ2)、息子の学問自慢と芸能自慢(巻3ノ1)、あるいは殺生好き、仏の慈悲を曲解して商いのじゃまをする親父(巻2ノ3)など、一編に対照的な性癖の人物を配し変化の妙をもたせている。気質物は、其磧が八文字屋との確執の間に案出して浮世草子に一つの展開をもたらした領域であるが、人情機微に触れるところの多い本書は、そのなかでも最高のできばえを示す作品といえる。

[江本 裕]

『長谷川強他校注・訳『日本古典文学全集37 仮名草子集・浮世草子集』(1971・小学館)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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