日本大百科全書(ニッポニカ) 「海事衛星通信」の意味・わかりやすい解説
海事衛星通信
かいじえいせいつうしん
陸上と航行中の船舶との間および船舶どうしの通信に人工衛星を利用するもの。国際海事衛星システムの構想が初めて公式の場で取り上げられたのは、IMCO(イムコ)(政府間海事協議機関。1984年国際海事機関=IMOと改名)の海上安全委員会において海事衛星システム研究の着手が決定された1966年である。1971年に専門家パネルが設立され、海事衛星システムの運用要件、技術特性、経済評価などが検討された。紆余曲折(うよきょくせつ)を経たのち、インマルサット(INMARSAT)条約に基づいて設立された国際機関であるインマルサット(国際海事衛星機構)が1979年7月16日に発足した。一方このような国際機関の動きとは別に、アメリカでは四つの通信業者が協同して、1976年大西洋、太平洋およびインド洋に静止衛星を打ち上げ、マリサット(MARISAT)という公衆通信サービスを始めた。しかし現在ではすべてインマルサットを利用している。
インマルサットは条約に定められているように、すべての海域における遭難および人命の安全にかかわる通信、船舶の効率的運航と管理、海事公衆通信業務、無線測位の能力改善に貢献することを目的としている。2003年3月時点で、インマルサットを用いる通信ではA型、B型、C型、M型、ミニM型、航空の各システムがある。A型は初期のものであるが、B型はデジタル通信方式、C型は小型船に装備できるよう小型化したもの、M型は可搬、車載を可能としたもの、ミニM型はM型よりさらに小型で可搬のものである。A型、C型などにはEGC(enhanced group call=高性能グループ呼出し)という機能が付属しており、特定のグループの船舶のみを呼び出すことも可能となっている。またLバンド(1.6ギガヘルツ)を使った非常用位置指示無線標識(EPIRB(イパーブ))はGMDSS(Global Maritime Distress and Safety System=全世界的海上安全制度)の重要な位置を占めている。従来SOSで代表されていた遭難通信は、1999年2月1日、新しい遭難通信システムGMDSSに切り替えられ、コスパス・サーサット(COSPAS/SARSAT)衛星を主体として、迅速に遭難情報が伝達されるようになった。
[飯島幸人]
『佐藤敏雄著、電子通信学会編・刊『海事衛星通信入門』(1986・コロナ社発売)』▽『飯島幸人・庄司和民著『GMDSS実務マニュアル――全世界的な海上遭難・安全システム』(1996・成山堂書店)』▽『郵政省通信政策局監修、KDDエンジニアリング・アンド・コンサルティング編・刊『衛星通信年報(平成10年版)』(1999)』