日本大百科全書(ニッポニカ) 「海事衛星」の意味・わかりやすい解説
海事衛星
かいじえいせい
海上を航行する船舶相互間の通信、ならびに陸上と船舶との間の通信を確保することを目的とした一種の通信衛星。従来この種の通信は中波帯および短波帯の電波に頼っていたが、人工衛星を無線中継局とするマイクロ波を利用することによって、格段と通信容量および品質を向上させることができるようになった。
1976年以来アメリカが試験的に実施していたマリサット(MARISAT)・システム(マリサット衛星による海事衛星通信サービス)から、1982年、日本を含む世界37か国で共有運用するインマルサット(INMARSAT)・システムに移行してサービスが開始された。大西洋、太平洋、インド洋の三つの大洋上にそれぞれ静止海事衛星が配置され、各海域を航行する船舶はこの海事衛星、各海域沿岸に設置された複数個の地上局を経由して、陸側、あるいは他の船舶と電話、テレックスなどの通信を行うことができるようになった。2010年末時点の、インマルサット・システムを運営する国際移動通信衛星機構(IMSO)の加盟国は94か国となっている。なお遭難通信は、従来は無線電信(SOS通信)が主であったが、1999年2月から全世界的海上安全制度Global Maritime Distress and Safety System(GMDSS)に切り替わり、コスパス・サーサット(COSPAS/SARSAT)周回衛星を利用した遭難通信システムの運用が開始されている。
[竹内端夫]
『佐藤敏雄著、電子通信学会編・刊『海事衛星通信入門』(1986・コロナ社発売)』▽『山本草二編著『注解 国際海事衛星機構条約 INMARSAT』(1991・第一法規出版)』▽『野坂邦史・村谷拓郎著『新版 衛星通信入門』(1994・オーム社)』▽『飯島幸人・庄司和民著『GMDSS実務マニュアル――全世界的な海上遭難・安全システム』(1996・成山堂書店)』▽『総務省情報通信政策局監修、KDDIエンジニアリング・アンド・コンサルティング編・刊『衛星通信年報』各年版』