改訂新版 世界大百科事典 「海峡スズ」の意味・わかりやすい解説
海峡スズ(錫) (かいきょうすず)
マレー半島で産出するスズの総称。第2次大戦後,この言葉はあまり用いられなくなった。マレー半島は古くからスズの産地として有名であったが,19世紀に入り,イギリスでスズめっき(鍍金)をした鉄板(ブリキ板)の製造と,それを使用した缶詰工業が始まるとともにその重要性が増した。スズの生産は初め中国人資本家によって中国人労働者を使用して行われた。その技術は簡単で,労働集約的産業の典型であった。スズは主としてマレー半島西海岸で産出し,海峡植民地はその輸出港として重要であった。1877年に蒸気ポンプが排水用に導入されたのが生産の機械化のはじまりで,こののち生産量が飛躍的に増大し,89年以降は世界第1位の生産量を誇った。1912年に浚渫機(しゆんせつき)が導入されたことはスズ生産に一大転機をもたらした。浚渫機の使用には巨額の資本を要するため,中国人資本家はスズ生産からほぼ撤退し,ヨーロッパ資本がこれに代わってスズ生産を掌握した。しかしスズの採掘は自然を荒廃させてしまうので,生産地域に対してはイギリス植民地政府から,とくにマレー人農民保護のために制限が加えられた。1929年からの大恐慌によって海峡スズの生産も大打撃をうけた。その結果,生産・輸出の制限措置がとられ,また備蓄制度が設けられて価格の維持がはかられた。ちなみに29年の生産量は7万2000tであったが,33年には2万5000tに減少した。現在でもスズはゴム,石油とならんでマレーシアの重要輸出品となっている。
執筆者:生田 滋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報