塗金とも書き,滅金(めっき)ともいう。銅または銅合金の製品の表面に金や銀などを付着させる金工加飾技法の一つ。中国では戦国時代以降に盛行し,日本では古墳時代以降にみられるが,これは金アマルガム鍍金である。水銀が鉄,白金,コバルト,マンガン,ニッケル以外のすべての金属と溶けあって合金をつくる性質を利用したものである。金または銀を水銀に混ぜてアマルガムをつくり,これを磨きあげた銅の表面に塗布したのち,炭火で加熱して水銀を蒸発させ,金または銀を定着させる,いわゆる〈けしめっき〉(金消)である。この技法は古くから金銅(こんどう)または金泥銅(きんでいどう)という名で呼ばれている。飛鳥・奈良時代の鋳仏像は金銅仏が大部分で,仏具その他の金工品も鍍金のものが大多数を占めている。鏡などには錫滅金が用いられた。アマルガム鍍金は江戸時代に書かれた《装剣奇賞》によると,その一つは,器物の表面をよく磨き,梅酢で洗浄し,砥粉(とのこ)と水銀を合わせてすりつけた上に金箔を置き,火であぶることを2,3度くりかえす箔鍍金法である。もう一つは,灰汁でよく器物を煮,その上を枝炭や砂で磨き,梅酢で洗ったのち,金粉と水銀をよく混合したアマルガムを塗布し,熱を加えると水銀が蒸発し金だけが表面に残る。これを2度ほどくりかえし,鉄針を横にしてこすり,刷毛で磨き,緑青で色上げする方法である。上代では後者に近い方法がとられたものと推定される。アマルガム鍍金は水銀を蒸発させるときに生ずるガスが有害で,人畜の皮膚や呼吸を冒すばかりでなく生命も危険である。平安時代以降には,素地の表面に水銀を塗り,金箔をはって箔を焼きつける技法もあらわれた。また水銀有毒ガスの危険を免れるため,そして鍍金と同様の効果をあげるため,漆で金箔を付着させる漆箔法が塗金法として開発されている。
アマルガム鍍金は古墳出土の帯金具や冠帽,履(くつ)などの服飾品や,刀装具,馬具などに盛んにみられる。これらの中には輸入品ばかりでなく,日本独自のものと認められる金銅装頭椎(かぶつち)大刀が示すように,6,7世紀に入ると日本でも鍍金技術が習熟されるようになったと考えられる。《元興寺伽藍縁起幷流記資財帳》によると,推古天皇13年(605)につくられた飛鳥寺の釈迦丈六像は,金759両を塗金に使用している。東大寺大仏は《東大寺要録》によると金1万0436両(437.686kg),水銀5万8622両(2458.595kg)の大量を要し,これは金1に対して水銀5.6の割合となる。現代でも水銀鍍金は1対5の割合で混合している。現代の鍍金法については〈めっき〉の項目を参照されたい。
執筆者:香取 忠彦
〈ときん〉ともいう。材料の表面を薄い金属の皮膜でおおう金属表面処理法。装飾,防食,表面硬化,機能付与などさまざまな目的で使われる。プラスチックやセラミックスなど材料一般に対しても表面処理の代名詞として,めっきという言葉が使われることがある。現在最も広く利用されているものは,水溶液から電気化学的な方法で行う電気めっきであるが,ほかに水溶液を媒体とはするが無電解で行う化学めっきや溶融した金属の浴に浸漬して表面を被覆する溶融めっきなどがある。近年は真空蒸着,イオンプレーティング,化学蒸着などの気相を媒体とする方法(乾式めっきと総称する)の開発が行われている。
日本のめっき技術の始まりは飛鳥時代の仏像の金めっきにさかのぼるといわれている。あらかじめ金を溶かしこんだ水銀(アマルガム)を銅製の仏像に塗布したのち,加熱によって水銀を蒸発させて表面に金の皮膜をつくる。金のアマルガムを滅金(めつき)と呼んだことから,このような皮膜の作成方法自体がめっきと呼ばれるようになった。古い時代のめっき技術は仏像,装身具,工芸品などに対する装飾目的の金めっきであり,工業製品への幅広い応用は1930年代以降に発達した。
執筆者:増子 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…塗金とも書き,滅金(めっき)ともいう。銅または銅合金の製品の表面に金や銀などを付着させる金工加飾技法の一つ。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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