日本大百科全書(ニッポニカ) 「消火剤」の意味・わかりやすい解説
消火剤
しょうかざい
消火の目的で使用される物質。火を消すためには、(1)酸素の供給を断つ、(2)可燃物を冷却する、(3)燃焼反応の連鎖を担う化学種を不活性なものに変える、作用が必要である。
水が消火に用いられるのは、比熱、気化潜熱が大きくて冷却効果が高く、また噴霧状にして使うと空気を遮断する効果があるからである。二酸化炭素(炭酸ガス)を鉄製の耐圧容器に入れ、直接炎に放射すると(1)と(2)の効果が発揮される。硫酸アルミニウムおよび炭酸水素ナトリウムのそれぞれ水溶液を、使用直前に混合すると、反応して二酸化炭素、水酸化アルミニウム、硫酸ナトリウムが生じ、これらが水とともに泡状になって放出される。また、水溶性タンパク質を起泡成分にするものもある。これらの泡沫(ほうまつ)消火剤は(1)および(2)の作用をもつ。
気化して重い不燃性の気体となるハロンと呼ばれる塩素、臭素、フッ素を含む化合物が消化剤としてよく用いられたが、これらの化合物はオゾン層保護の意味からしだいに規制される方向にある。第一リン酸アンモニウムは熱で分解し、この際の吸熱作用で燃焼物を冷却するとともに、生成する潮解性のリン酸系化合物が可燃物を覆う役目をする。炭酸水素ナトリウムでは熱分解して二酸化炭素や水を生じ、(1)の作用をする。これらは微粉にして用いるので、粉末消火剤またはドライケミカルとよばれる。
[松田治和]