日本大百科全書(ニッポニカ) 「フッ素」の意味・わかりやすい解説
フッ素
ふっそ
fluorine
周期表第17族に属し、ハロゲン族元素の一つ。1886年フランスのモアッサンにより、無水の液状フッ化水素に溶かしたフッ化カリウムの希薄溶液を、白金電極を用いて低温で電気分解して、初めて単体として遊離された。他のハロゲンに比べ単離が遅れたのは、その反応性がきわめて高いことによる。fluoはギリシア語の「流れる」という意味で、蛍石(ほたるいし)CaF2を他の物質に加えると融点が下がって液化しやすくなるため古くから冶金(やきん)用融剤として用いられており、英・独・仏名ともこれに由来している。日本名はその音訳である。蛍石、氷晶石Na3AlF6、燐灰(りんかい)石Ca5(F,Cl)(PO4)3などの鉱物として広く分布する。フッ素の活性の強さから取扱いが面倒で、多くの発展をみなかったが、第二次世界大戦でフッ化ウランによるウランの同位体の分離が行われたことと、耐フッ素性の合成フッ素樹脂やフロン類の生産が開始されたことで、それ以降大きく発展することとなった。
[守永健一・中原勝儼]
製法
工業的には電解法によって製造される。電解浴のKF:HFの組成比により、高温法(1:1、約250℃)と中温法(1:2、約100℃)がある。電解槽(陰極となる)、隔膜に銅、モネル合金または鋼、陽極に炭素材料が用いられる。
[守永健一・中原勝儼]
性質
常温で二原子分子F2からなる淡黄色の気体。刺激臭が強く有毒である。液体フッ素はきわめて反応性が強く皮膚、粘膜などを侵す猛毒である。F-F結合間隔は1.418Å、解離エネルギーは155キロジュール/モル。液体は淡黄色で、低温になるにつれ無色に近づく。酸素、窒素以外のほとんどすべての元素と直接化合する。水素とは暗所でも爆発的に化合してフッ化水素をつくる。金、白金とも高温で反応して高級酸化数のフッ化物をつくる。銅は表面にフッ化物の膜を生じ、内部は侵されない。水と激しく反応して酸素、フッ化水素のほかにオゾン、過酸化水素、二フッ化酸素を生じる。
核燃料製造用の六フッ化ウランの合成、また絶縁体としての六フッ化硫黄の製造に多く用いられる。またフッ素化剤として直接用いることもあるが、普通はフッ化水素酸から種々のフッ化物、フルオロケイ酸などとし、金属工業や窯業などの分野に広い用途がある。すなわち、鉄鋼などの表面処理、アルミニウムの精錬に、ガラス・陶磁器の乳白剤、うわぐすりなどに用いられる。さらに、有機フッ素化合物(フロン、フッ素樹脂など)の製造原料や有機合成触媒となるほか、防腐剤、殺虫剤などの用途がある。毒性が強い。
[守永健一・中原勝儼]
フッ素(データノート)
ふっそでーたのーと
フッ素
元素記号 F
原子番号 9
原子量 18.998403
融点 -219.62℃
沸点 -188.14℃
密度 1.696g/dm3
(0℃,1気圧)
比重 液体 1.502(測定温度-188℃)
結晶系 α(<45.6K);単斜
β;立方
元素存在度 宇宙 (Si 106個当りの原子数)
3630(第19位)
地殻 625ppm(第12位)
海水 1.3mg/dm3
臨界圧 55気圧
臨界温度 144K