物売物(読み)ものうりもの

改訂新版 世界大百科事典 「物売物」の意味・わかりやすい解説

物売物 (ものうりもの)

歌舞伎舞踊の一系統。街頭を流す物売りの風俗を舞踊化した作品群。元禄(1688-1704)ころから狂言の中にみえるが,宝暦期(1751-64)になると純粋の所作事に採り入れられ,文化・文政期(1804-30)の変化舞踊流行につれて,多くの物売りが登場する。はじめは,外郎(ういろう)売,白酒売,荵(しのぶ)売など狂言の中で,実際の身分を隠す〈やつし〉の姿の一つとして登場するが,のちには市井風俗を風物詩的に描写する舞踊となる。物売りの商売宣伝の風姿が目を引き,舞踊の格好の題材となったもので,実際に商売とタイアップすることもあったと思われる。日用品の団扇うちわ)売,扇売,黒木売(小原女),茶筅(ちやせん)売,焙烙(ほうろく)売,花火売,歯磨売,食料品の餅売(粟餅),団子売,水売,松魚(かつお)売,納豆売,飴売,鰺(あじ)売,玩具や季節物の朝顔売,虫売,蝶々売,しゃぼん玉売(玉屋),目鬘(めかつら)売などがある。なかには変わった商売の恋文代筆屋の文(ふみ)売まである。現在《白酒売》《玉屋》《粟餅》《文売》《小原女》などが残り,上演されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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