猟官制度(読み)りょうかんせいど(その他表記)spoils system

翻訳|spoils system

改訂新版 世界大百科事典 「猟官制度」の意味・わかりやすい解説

猟官制度 (りょうかんせいど)
spoils system

スポイルズ・システムともいう。公職任免を党派的忠誠や情実によって決める政治慣行のことをいう。イギリスやアメリカにおいて発達したが,スポイルズという言葉を生んだのはアメリカである。それは1832年,ニューヨークの上院議員W.L.マーシーが述べた〈戦利品(スポイルズ)は勝者の手に〉という有名な文句に由来する。アメリカにおいてスポイルズ・システムを初めて用いたのは,第3代大統領ジェファソンであるが,この制度が確立されるのは,第7代大統領ジャクソンの時代になってからである。彼はそれまで州レベル以下で行われていた公職交替制の原理を連邦公務員の任用制度に応用した。ジャクソンは,大統領が任命できる公職612のうち252について更迭を行った。またリンカン大統領は1639の公職の中で実に1457というアメリカ史上最大の更迭を行った。しかしスポイルズ・システムによる公職の更迭は金権政治と結びつき,種々の弊害を生みだした。またこの制度の下では,必ずしも適任者が公職に就任するとは限らず,行政の能率低下をもたらしたために改革の声が高まった。

 1883年にペンドルトン法と呼ばれる〈連邦公務員法〉が成立し,試験競争による資格任用制メリット・システム)が導入された。この方式は20世紀に入り拡大され,1901年には任命による公職が65%,試験による公職が35%という比率であったものが,49年には任命13%,試験87%を占めるようになった。しかし試験競争による公職が増大したといっても,アメリカではヨーロッパや日本のそれと比べて,任命制による公職の割合がきわめて高いといえる。今日でもアメリカにおいては,大統領が変わるたびに,各省庁の局長以上の上級公務員の入替えが行われている。1980年の選挙の場合,レーガン大統領が新たに任命できる公職は5053を数え,現在でも事実上猟官運動が行われている。
売官
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旺文社世界史事典 三訂版 「猟官制度」の解説

猟官制度
りょうかんせいど

スポイルズ−システム

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世界大百科事典(旧版)内の猟官制度の言及

【公務員】より

… これに対して,アメリカ合衆国では,公務員への採用のチャンスは,すべてのレベルで開放されており,職務に関連した専門的能力が要求されるところに特色があった。もともとアメリカの公務員制度の基本的性格は,猟官制度spoils systemの支配であった。大統領選挙に勝利を占めた政党がすべての官職を獲物として独占するという制度は,1829年に就任したジャクソン大統領のもとで本格的に展開されたが,その背景にはこの国に特有の厳格な権力分立主義の統治構造と〈政府の仕事は普通の知能ある者ならばだれでもできる〉というジャクソン大統領の言葉に代表されるような民主的行政の理念およびそれを可能にした社会経済的条件があった。…

【情実任用】より

… 一方,アメリカ合衆国で支配していたのは公務員の任免を政党的情実によって決定する政治的慣習であった。これは猟官制spoils systemと呼ばれている。この言葉は〈獲物は勝者に帰属する〉というローマ時代のスローガンに由来している。…

【政治家】より

…〈勝ったものが戦利品を独占する〉という原則は,1828年に当選したジャクソン大統領のもとで制度化された。大統領選挙における自党の勝利につくしたという資格だけで,いわば素人の政治家が上は重要な官職から下は地方の郵便局長にまで任命されるこの猟官制度(スポイルズ・システムspoils system)は,当然に腐敗と浪費をともなったが,イギリス,アメリカがともにヨーロッパ大陸諸国のような官僚制統治を長く免れた理由はこの政治家の自治能力の高さにあった。そのイギリス,アメリカにおいても,19世紀半ば以降,公務員の任用についての資格試験制度(メリット・システムmerit system)が導入され,公務員の地位が保障されると同時に公務員の政治参加に一定の制限が加えられることになり,政治家とはもっぱら選挙制による中央,地方の議員,地方自治体の首長,大統領を指すようになった。…

【行政】より

…政党政治による行政の支配は官僚の任免にまで及び,これをとおして,かつての君主の官僚は議会に忠誠をつくす行政官,さらには時の政権政党に忠誠をつくす行政官に変えられていった。その極限形態が19世紀のアメリカ合衆国に確立した猟官制度である。この猟官制度のもとでは,政権政党が交替するたびごとに行政官の大量更迭が繰り返され,行政官僚制はその集団としての自律性をほとんど完全に喪失していた。…

【公務員】より

… これに対して,アメリカ合衆国では,公務員への採用のチャンスは,すべてのレベルで開放されており,職務に関連した専門的能力が要求されるところに特色があった。もともとアメリカの公務員制度の基本的性格は,猟官制度spoils systemの支配であった。大統領選挙に勝利を占めた政党がすべての官職を獲物として独占するという制度は,1829年に就任したジャクソン大統領のもとで本格的に展開されたが,その背景にはこの国に特有の厳格な権力分立主義の統治構造と〈政府の仕事は普通の知能ある者ならばだれでもできる〉というジャクソン大統領の言葉に代表されるような民主的行政の理念およびそれを可能にした社会経済的条件があった。…

【政治家】より

…〈勝ったものが戦利品を独占する〉という原則は,1828年に当選したジャクソン大統領のもとで制度化された。大統領選挙における自党の勝利につくしたという資格だけで,いわば素人の政治家が上は重要な官職から下は地方の郵便局長にまで任命されるこの猟官制度(スポイルズ・システムspoils system)は,当然に腐敗と浪費をともなったが,イギリス,アメリカがともにヨーロッパ大陸諸国のような官僚制統治を長く免れた理由はこの政治家の自治能力の高さにあった。そのイギリス,アメリカにおいても,19世紀半ば以降,公務員の任用についての資格試験制度(メリット・システムmerit system)が導入され,公務員の地位が保障されると同時に公務員の政治参加に一定の制限が加えられることになり,政治家とはもっぱら選挙制による中央,地方の議員,地方自治体の首長,大統領を指すようになった。…

【メリット・システム】より

…一般に資格任用制や成績制と訳されている。アメリカでは,建国以来公務員の任命を党派的情実によって決定する政治慣習であるスポイルズ・システム(猟官制度)がはびこっていたが,この制度の下では適任者が公務員に就任するとは限らず,種々の弊害を生み出していた。1883年,連邦政府はペンドルトン法Pendleton Act(〈連邦公務員法〉の通称)を制定し,公務員が試験の成績(メリット)によって採用される基礎を築いた。…

※「猟官制度」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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