生体観察(読み)せいたいかんさつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「生体観察」の意味・わかりやすい解説

生体観察
せいたいかんさつ

生きている人の体を体表から解剖学的に観察することで、これを学問的に体系づけたものが身体学(人体学)somatologyである。また、解剖学では、生体観察を解剖学の一部門として位置づけ、体表解剖学(表面解剖学)surface anatomyとよんでいる。人体の構造を調べる場合、死体を解剖して人体内部の構造を観察・研究する方法と、生体を表面から調べることによって、表在性ならびに深在性の種々の臓器の位置や形状などを調べる方法とがある。後者が体表解剖学であり、硬直した死体ではわからない部分に触れたり、生体の運動によっておこる種々の器官の働きを知ることができる。すなわち、表情筋の動き、骨格骨格筋の動き、血管壁の弾力性やその拍動などは、生体を観察することによって初めて理解できるわけである。また、体表解剖学は、その知識から人体内部臓器の変動を察知することができ、臨床医学のうえからも重要な学問となっている。この学問は元来、レオナルド・ダ・ビンチらが中心となったイタリアのルネサンス時代中期に始まったもので、主として美術家を対象とした人体造形美術のための学問であったが、現代では体表解剖学による生体観察は、美術家対象ばかりでなく、前述のように医学のなかでも重要な役割を果たしている。

 生体観察には特別に決められた研究方法はないが、精密に目で観察(視察)したり、手で触れたり(触察)して調べるのが一般的である。また、数量的な観察のためには生体計測somatometryも行われる。近年は人間工学的な学問領域が発展し、厳密な人体計測値図表も出されているが、生体観察では、体表の区分、体表の浮き彫り像と器官との関係、皮膚とその付属器(皮膚紋理、汗腺(かんせん)開口、毛など)のほか、骨格系、筋肉系、循環系などが図表化の対象となるであろう。また、生体観察の学問の進歩と同時に、身体を表現する正確な解剖学的用語の普及も重要な事項となると思われる。

[嶋井和世]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の生体観察の言及

【生体学】より

…本来は身体に関する(somato‐)学問(‐logy)のことで,解剖学・生理学を含む身体全般を取り扱う科学のことであるが,今日ではやや狭く,生きている人体を解剖することなく体表面から視察・触察して,生体の体表や内部の形と構造,および器官の機能を理解しようとする学問のことをいうことが多い。体表解剖学surface anatomyあるいは生体観察somatoscopyの同義語として用いられることもあるが,広義には生体の体表の形や大きさを数量的に示す生体計測somatometryを含んでいる。 生体を対象とする調査の利点は,身体を傷つけることのない点がまずあげられるが,皮膚や虹彩の色の変化や,筋肉および各器官の硬直化などの死後変化のない自然の状態が観察できることにある。…

※「生体観察」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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