日本大百科全書(ニッポニカ) 「生前給付型生命保険」の意味・わかりやすい解説
生前給付型生命保険
せいぜんきゅうふがたせいめいほけん
生命保険の死亡保険金相当額などを、生前に受け取ることができる生命保険の総称。癌(がん)など重い病気にかかった際の「重度疾病型」と、余命半年などと診断された場合の「末期疾病型」の2種類に分けられる。入院中の生活費や治療費など、人生の残された期間を経済的に不安なく過ごせることから、契約者は増えている。ただ実際に保険金が支払われないトラブルが多発し、生前給付型保険の商品設計や契約のあり方への批判も出ている。
日本では1992年(平成4)に一部生命保険会社が発売して人気商品となった。死亡により保険金を受け取る生命保険(第一分野保険)、事故や火災で保険金を受け取る損害保険(第二分野保険)のいずれにも属さない、医療・癌保険などの第三分野の一つとして、生前給付型の市場が拡大してきた。
「重度疾病型」は癌、急性心筋梗塞(こうそく)、脳卒中など保険会社が定めた特定疾病にかかった際、一定条件を満たせば生前給付を受けられる。「三大疾病保障保険」「特定疾病保障保険」などの名称で販売されており、保険金支給時に保険契約は解消する。重い病気のため契約者本人に告知しないケースが想定されることから、あらかじめ決めた指定代理請求人が契約者にかわって保険金を請求できる制度を取り入れた商品もある。
「末期疾病型」は疾病を特定せず、余命半年と医師に診断されれば死亡保険金の全部または一部を受け取ることができる商品。生命保険に「リビング・ニーズ」という特約をつけるケースが多く、特約をつけることによる保険料の増額はない。リビング・ニーズ特約で保険金を受け取った後に死亡しない場合でも保険金は返済しなくてよい。
ただ2006年から2007年に表面化した保険会社の大量不払い問題では、生前給付型が不払いケースの半分程度を占めていた。契約者の理解できない特約が多すぎる、指定代理請求制度を適用できる保険商品が限定的である、といった批判が起き、商品の仕組みや契約方法を見直すべきだとの意見が出ている。
[矢野 武]