デジタル大辞泉 「死亡」の意味・読み・例文・類語
し‐ぼう〔‐バウ〕【死亡】
[類語]死ぬ・死去・死没・永逝・長逝・永眠・往生・逝去・他界・物故・絶息・絶命・大往生・お陀仏・死する・辞世・成仏・昇天・崩御・薨去・卒去・瞑目・落命・急逝・夭折・夭逝・亡くなる・没する・果てる・眠る・
死ぬこと。臨床的に、死とは心拍動、呼吸運動および脳機能の永久的停止が明確になったときと考えられており、これら三つの徴候、すなわち心拍動の停止、呼吸運動の停止、角膜反射や瞳孔(どうこう)反射(瞳孔散大)に基づく脳機能の停止によって判定される人の死は三徴候死ともいわれている。しかし三徴候死でも一般的には、心拍動と呼吸運動が停止すれば脳機能も当然停止するであろうという考えが根底にあっての判定といえよう。また、医療技術の進歩により、心や肺はその機能を人工的にもある程度補うことが可能になってきた。すなわち心肺機能が失われても脳機能が保たれてさえいれば人の死とはいえないわけで、脳機能の喪失が人の死を決定づける要因としてきわめて重要なことと考えられる。一方、脳機能の回復見込みがまったくない患者を人工呼吸器の装着により機械的に維持管理しうるケースが増え、それに伴って「脳死」の概念や判定基準が示されてきた。「脳死」に関してはこれまでに医学の分野だけでなく社会的にも多くの論争が行われてきたが、1997年(平成9)10月の臓器移植法の施行によってわが国では法的に「脳死」も人の死であることが認められた。
いずれにしても、このような特殊なケース以外は従来どおり心拍動の停止、呼吸運動の停止、角膜反射や瞳孔反射の消失などによって人の死を判定するわけであるが、この判定はだれもが簡単にできるというものではない。心拍動と呼吸が正常に機能している状態と、断首されたり頭部や胸部が挫滅(ざめつ)した状態を比較して、前者を生、後者を死と判定するのは簡単であるが、一般的には、生命現象は微弱な仮死状態を経て死へと移行する。この仮死状態においては、死の徴候がいくつか現れるので、ことに慎重な判断が必要である。死の徴候として、心拍動停止、自発呼吸停止、瞳孔散大、諸反射の消失、筋肉の弛緩(しかん)、皮膚の蒼白(そうはく)化、皮膚・粘膜の乾燥、体温降下、死斑(しはん)、死体硬直等を認めるが、このうち死斑と死体硬直以外は仮死状態でも認めうる所見であり、死斑と死体硬直が発現するとその死は確実となる。したがって、この両者を死の確実徴候といい、慎重な医師では、この所見が現れてから死を宣告する。しかし、たとえ死が確定的となっても、すべての組織や構成細胞までがただちに死ぬわけではなく、たとえば、電気や機械的な刺激に対する反応(筋の収縮)、薬物に対する反応(瞳孔の縮小や散大)、腸の蠕動(ぜんどう)運動、気管上皮の線毛運動、精子の運動性等、種々の超生体反応が認められるし、また一部の臓器や組織については、生体への移植も行われている。やがて、死後の時間的経過に伴って、種々の死体現象が現れてくる。
人が死亡すると、一般的には治療にあたった医師や死体を検案した医師等によって、死亡診断書、もしくは死体検案書が作成される。親族等はそれをもって死後7日以内に死亡地の市町村長に対し、死亡届を出さねばならない(戸籍法86~93条)。この届出によって埋火葬許可証が発行されるが、たとえ解剖した死体であっても、死亡後24時間を経過しなければ埋火葬はできないとされている(墓地、埋葬等に関する法律3条)。通常、死体が発見されると、その旨発見者等から警察に通報されるし、また、医師には異状死体の届出義務(医師法21条)があり、治療中死亡したものや診察時すでに死亡していたもののうち、明らかな外因死、外因死の疑いのあるもの、死因が明らかでないもの等は所轄の警察署に届け出なければならないことになっている。いずれにしても、このような異状死体が警察に届けられると、刑事訴訟法の規定に従って検視が行われ、医師の検案が求められる。この場合、「明らかに犯罪と関係がある死体、もしくは犯罪と関係があるかどうか疑わしい死体」と、「犯罪とは無関係な死体」とでは対処の仕方が当然異なってくる。前者は刑事訴訟法の規定に基づき、司法解剖の手続がとられるし、また後者の場合でも、監察医制度施行地域ならば行政解剖、その他一部の地域では遺族の承諾を得て承諾解剖が行われ、死因等が明確にされる。これらはすべて死体解剖保存法の規定に基づいて行われているが、とくに監察医制度についてはアメリカと比較してかなりの遅れがあり、監察医制度の全国的な普及を望む声もある。なお、医師によって作成されるすべての死亡診断書、死体検案書類は、厚生労働省において死因統計がとられ、公衆衛生上有効に役だてられている。
[古川理孝]
ある人が死亡した事実と死亡の日時は、普通、医師の死亡診断または死体検案によって証明される。水難、火災などにあって死骸(しがい)が不明な場合でも死亡したことが確実なときは、一定の官庁の責任ある証明によって死亡したものと認めることができる(戸籍法89条)。これを認定死亡という。なお、たとえば同じ飛行機事故で父と子がともに死亡したときに、どちらが先に死亡したかが相続の関係などで重大な問題となるが、民法では、とくに死亡の時期に先後があることを証明しない限り、同時に死亡したものと推定する(民法32条の2)。同時に死亡したものと推定される者同士は、互いに相手の相続人とならない。ただし前記の例で、子にさらに子があればその子(父からみれば孫)は代襲(だいしゅう)相続をする(同法887条2項、3項)。また、行方不明で生死がわからない者については、一定の期間が経過すると死亡したものとみなす失踪(しっそう)宣告(同法30条以下)の制度がある。
死亡により、法律上は権利能力が消滅し、その人に帰属した権利義務のすべては相続人に相続される(同法882条)。ただ、その人に帰属しなければ意味のないような権利義務(一身専属権)は、その人の死亡により完全に消滅する(同法896条但書)。
[高橋康之・野澤正充]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…本来は生物個体が生命を失うことの概念であるが,種・個体群や器官,組織,細胞,原形質などの系についても考えられている。老衰による死,つまり寿命が尽きるまで生存する個体は自然ではまれで,多くの個体は捕食,病気,飢餓,気候,事故などの外的要因で死亡する。同じときに生まれた生物の集団の個体の死亡時の齢を記録して曲線を描くと,次の3種類の曲線が得られる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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