異郷人歓待(読み)いきょうじんかんたい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「異郷人歓待」の意味・わかりやすい解説

異郷人歓待
いきょうじんかんたい

定住民社会にとって、外部から訪れる異郷人は身元も確かでなく一つの脅威をもたらす存在であるが、特殊な人、また特定の日に限って異郷人を歓待、崇拝する場合がある。そのような慣行をいう。各地の未開社会では鍛冶(かじ)師や遊行(ゆぎょう)者など元来漂泊性をもつ職業者がその対象になることが多く、饗応(きょうおう)を受けたり、極端な例としてエスキモー社会にかつてみられた妻貸しの接待を受けるような場合がある。日本でもたとえば弘法清水(こうぼうしみず)の伝説にみるように、旅の僧を歓待しなければ不幸になるとするような考え方、また鹿児島県大隅(おおすみ)半島の村々で霜月(11月)の大師講の日にはかならず旅行者を家に迎えて饗応したという習俗、さらに東北地方で顕著な小正月(こしょうがつ)行事でなまはげなど仮面仮装の異形の姿をした者を「来訪神」として迎え祝福を受けるとともに歓待する習俗など、この慣例に事欠かない。時を定めて来訪する異郷人を呪術(じゅじゅつ)的宗教的な力を帯びた存在とみる考え方が、この慣行の根底をなすといえよう。

[野口武徳]

 2018年(平成30)なまはげを含む来訪神行事10件が、「来訪神:仮面・仮装の神々」としてユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産一括登録された。

[編集部 2019年3月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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