弘法大師空海の信者が結成する講社をいう。また天台宗では開祖智者大師智覬(ちぎ)の忌日11月24日に講会を営み,比叡山では霜月会,天台会などとよんだが,他の諸寺では大師講と称した。また民家で行う伝教大師最澄の忌日の仏事をも大師講という。このほか東北,関東北部,北陸,中部や山陰地方には,旧暦11月23日夜から翌日にかけて,大師講とよばれる民俗行事がある。講といっているが講組織はなく,各民家で小豆粥や小豆に大根,蕪(かぶ)などを入れただんご汁を作り,〈ダイシノツエ〉という長短不揃いの箸(はし)を添えて,〈ダイシサマ〉に供える。近畿地方ではダイシは智者大師,元三(がんさん)大師(良源),弘法大師などと考えられているが,東北・関東地方では擂粉木(すりこぎ)のような一本足の神だというところが多く,また歴史上の大師とまったく関係のない伝承ばかりが伝えられている。〈ダイシ〉は本来〈タイシ(太子)〉としてのマレビト,すなわち来訪神であり,冬至の季節に行う,新たなる神の子を迎えての祭りが民俗的大師講である。
執筆者:伊藤 唯真
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旧暦11月23日の晩に家々を訪れる大師様に、小豆粥(あずきがゆ)や団子を供える行事。東北、北陸、中部や山陰地方など広域に伝承されている。ことに日本海沿岸地域では顕著で、講と称するが家の祭りである。この日はかならず雪が降るといい、大師様の足が片方であるとか、大師様のために畑の作物を盗む老女の足跡を隠すとかということで、デンボカクシ、アトカクシユキなどとよばれている。また大師様は子だくさんで長い箸(はし)で団子を刺して食べさせるなどという伝承や、片方の足の不自由を表しているという話を伴って、長短2本の箸を小豆粥や団子などの供え物に添える。片方の足や目が不自由だとか、人々の前に出現するときに雪や風など天候が荒れるというのは、日本の神のイメージとして古くから伝承されている一つのパターンである。現在は大師様といえばほとんどが弘法(こうぼう)大師を想定しており、ほかに智者(ちしゃ)大師や聖徳太子などもみられる。しかし、大師講は霜月二十三夜という時期的なことから、その年の新穀を祝う新嘗祭(にいなめさい)的な農耕儀礼が背景にあると考えるべきものであろう。その際に迎える神をダイシとしたのは、大子(おおいこ)つまり神の子ということからきたといわれているが、そうしたダイシ信仰が弘法大師の巡行伝説と結び付いたと考えられる。
[佐々木勝]
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… 関西以西では木樵,木挽,炭焼きのほかに大工,左官,石屋,桶屋などの職人ももっぱら太子様を信仰し,太子講を組んでまつりをした。これは農村の大師講すなわちダイシコウと区別してタイシコウと呼ばれ,祭日も大師講とちがっているのが普通である。 石切りや石細工の職人を一般に石屋というが,彼らも祖神として太子様を信仰しまつった。…
…要するに,このような遊行姿の僧がいろいろな呪術や奇跡を行うとする伝説が,大師伝説の基底にある。暮の11月23日に大師講と称し,小豆粥やだんごを作って,大師が村に来るのを歓待するとか,大師が来て麦やソバをもたらしたとする伝説も多い。 元三大師は角大師ともいわれるが,天台の僧良源のことで,正月の3日に生まれたからこの名がついたとされる。…
…太陰太陽暦(旧暦)においてはほぼ霜月下弦の日を冬至に該当させ,この夜大子(おおいこ)という神の子が人々に幸いや新たな生命力を与えて再生を促すために各地を巡遊するという信仰があった。これは西洋のサンタ・クロースの伝承にもつながるもので,日本では弘法大師と結びつけ,大師講の行事としているところが少なくない。また,冬至に収穫の感謝や天候占いをする例もあり,カボチャを食べると中風にかからないといったり,ユズ湯に入れば風邪をひかないというところは多い。…
…地方によっては,二十二夜を女性,二十三夜を男性の集りとする所もある。1,5,9,11月が重んじられ,とくに霜月(11月)の二十三夜は大師講の名で知られ,タイシと呼ばれる神の来訪を説いたりすることから,新嘗の忌籠りとの関連が推定されている。かつては,下弦の月の日に,月そのものを神聖視する行事があったと考えられ,講員は当日は肥を扱わないとか身体を清めて新しい着物にかえてくるとか精進潔斎が要求され,この夜身ごもると不具の子が生まれるという伝承もある。…
… 降雪期の初めは雪おこし,雪おろしなどと呼ばれる雷鳴ではじまり,著しい天候の急変と吹雪が襲うことがある。北陸,奥羽では八日吹き,大師講吹きなどといわれて,例年ほぼ同日にこの異変があると信じられた。これらの日のいわれとしては,神霊の出現と関連して伝えられたものがあり,たとえば大師講吹きは旧11月23日の大師講の夜に弘法大師が物乞いとして現れ,これを憐れんでめぐんだ者に大師が幸運を授けた話となっている。…
※「大師講」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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