教育、科学、文化を通じて諸国間の協力を促進し、世界の平和と安全に貢献することを目的とする国際連合の専門機関。略称UNESCO(ユネスコ)。1942年、ロンドンで開催された連合国文部大臣会議で教育、文化に関する国際機関の設立が検討された。その後、1945年11月16日、ロンドンで開かれた連合国教育文化会議で44か国代表によりユネスコ憲章が起草され、採択された。憲章は1946年11月4日に発効、同年12月14日には国連との協定によりユネスコは国連の専門機関となった。
ユネスコの目的は、(1)諸国民の相互理解と思想の自由な交流、(2)教育と文化の普及、(3)知識の維持、増進、普及の三つに要約され、これらを通じて戦争を精神面から防止することが意図されている。2023年11月時点で、194の加盟国と12の準加盟地域により構成される。日本は国連加盟に先だって、1951年(昭和26)7月2日に加盟国となった。
ユネスコの主要機関は総会、執行委員会、事務局である。総会はユネスコの最高機関で、各加盟国代表で構成され、政策と事業の主要な方針や予算を決定する。執行委員会は加盟国のなかから総会で選出された58の執行委員国で構成され、事業計画の実施を監督する。事務局には事務局長以下約2300名の職員が勤務し、本部はパリに置かれている。そのほか、各国の政府機関や民間団体とユネスコの事業との協力を図るため、各国にユネスコ国内委員会が設置されている。
ユネスコの事業活動は、これまで初等教育の拡充、難民教育などの教育分野、技術援助などの科学分野、文化遺産の保存・修理、文化交流などの文化分野において進められてきた。しかし1960年代に入りアフリカ諸国が大量にユネスコに加盟し、主導権を握るようになると、事業活動は開発途上国の開発援助のための教育と技術問題に重点が移り、1970年代以降になると、国際文化交流よりも文化の平等性が政治的に主張され、開発援助のための実地活動、軍縮や反人種差別などの倫理的活動が中心となってきた。さらに、情報の南北格差是正を求める新世界情報コミュニケーション秩序(新国際情報秩序)が主張され、アメリカ、イギリスなどのユネスコ脱退を招いた(その後、イギリスは1997年に、アメリカは2003年に復帰)。
2017年10月12日、アメリカ(ドナルド・トランプ政権)は、ユネスコの反イスラエル的性格を批判するなどして、ユネスコからの脱退を通告した(効力発生は、2018年12月31日)。イスラエルもこれに追随し、脱退した。その後、アメリカ(ジョー・バイデン政権)は、2023年7月10日に再加盟を認められた。
[横川 新・黒神直純 2024年1月18日]
『最上敏樹著『ユネスコの危機と世界秩序――非暴力革命としての国際機構』(1987・東研出版)』▽『野口昇著『ユネスコ50年の歩みと展望――心のなかに平和のいしずえを』(1996・シングルカット社)』▽『平和の文化をきずく会編『暴力の文化から平和の文化へ――21世紀への国連・ユネスコ提言』(2000・平和文化)』
(最上敏樹 国際基督教大学教授 / 2007年)
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[国際機関]
全地球的視野で解決を要する天然資源,食糧,環境,衛生,エネルギーなどの諸問題についての活動が展開され,また発展途上国の国民経済の発展を図るための科学技術力の強化を図る援助活動が続けられている。国連における〈開発のための科学技術政府間委員会〉〈新・再生可能エネルギー政府間委員会〉などは総合的なものであるが,発展途上国援助につき国連開発計画(UNDP),国連貿易開発会議(UNCTAD),国連工業開発機構(UNIDO)などの機構において技術協力が活発化しており,また宇宙空間平和利用委員会,国連環境計画(UNEP)などの活動のほか,国際原子力機関(IAEA),国連食糧農業機関(FAO),世界保健機関(WHO),国連教育科学文化機関(UNESCO)等の専門機関が,それぞれ技術援助や情報活動を行っている。また経済協力開発機構(OECD)においては,科学技術政策委員会(CSTP)などいくつかの委員会で交流が行われている。…
※「国連教育科学文化機関」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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