眠られぬ夜のために(読み)ねむられぬよるのために(その他表記)Für schlaflose Nächte

日本大百科全書(ニッポニカ) 「眠られぬ夜のために」の意味・わかりやすい解説

眠られぬ夜のために
ねむられぬよるのために
Für schlaflose Nächte

スイスの法律家で哲学者ヒルティの宗教的倫理的著作の一つ。一巻は1901年、二巻は19年に刊行された。人は災い多い嫌な不眠の夜を、「内的生活のとくに大きな進歩を遂げ、人生最上の宝を手に入れるため」の神から与えられた貴重な機会として、正しい慰めに至る省察のために活用しなければならない。それが不眠自体の治療ともなると、自らも不眠の夜を経験した彼はその緒言で述べている。省察はしかしいたずらな自己沈潜ではなく、本来他者との対話である。本書に収められた多くの短文は著者自身の思索と人生経験から出た肉声である。そこにおいて彼は、不眠者の省察、すなわち対話の相手になろうとしているのである。

[常葉謙二]

『草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』全二巻(岩波文庫)』『前田敬作訳『眠られぬ夜のために』上下(1972・筑摩書房)』『小池辰雄・登張正美他訳『眠られぬ夜のために』Ⅲ(1980・白水社)』

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世界大百科事典(旧版)内の眠られぬ夜のためにの言及

【ヒルティ】より

…故郷のクールに帰って弁護士となったが,つねにギリシア・ローマの古典に親しみ,やがて30歳のころ,深い精神的回心とともにキリスト教を再発見した。このことが,その後ベルン大学の国法学教授,同大学総長,国会議員,ハーグ国際仲裁裁判所判事などを歴任する間に,《幸福論》3巻(1891‐99)や《眠られぬ夜のために》(1901)などの深い倫理的宗教的な著作を生む機縁になった。それらは,富や栄誉ではなく,魂の内奥の静かな真理愛こそが人間の真の幸福を生むことを説いて,多くの人々の魂の慰めとなった。…

※「眠られぬ夜のために」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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