日本大百科全書(ニッポニカ) 「眠られぬ夜のために」の意味・わかりやすい解説
眠られぬ夜のために
ねむられぬよるのために
Für schlaflose Nächte
スイスの法律家で哲学者ヒルティの宗教的倫理的著作の一つ。一巻は1901年、二巻は19年に刊行された。人は災い多い嫌な不眠の夜を、「内的生活のとくに大きな進歩を遂げ、人生最上の宝を手に入れるため」の神から与えられた貴重な機会として、正しい慰めに至る省察のために活用しなければならない。それが不眠自体の治療ともなると、自らも不眠の夜を経験した彼はその緒言で述べている。省察はしかしいたずらな自己沈潜ではなく、本来は他者との対話である。本書に収められた多くの短文は著者自身の思索と人生経験から出た肉声である。そこにおいて彼は、不眠者の省察、すなわち対話の相手になろうとしているのである。
[常葉謙二]
『草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』全二巻(岩波文庫)』▽『前田敬作訳『眠られぬ夜のために』上下(1972・筑摩書房)』▽『小池辰雄・登張正美他訳『眠られぬ夜のために』Ⅲ(1980・白水社)』