ヒルティ(読み)ひるてぃ(英語表記)Carl Hilty

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒルティ」の意味・わかりやすい解説

ヒルティ
ひるてぃ
Carl Hilty
(1833―1909)

スイスの法律家、キリスト教的倫理的著作家。父は著名な医者。母は篤信で愛情深く、豊かな精神の持ち主で、彼の精神形成に深い感化を及ぼしたといわれる。法学を学び弁護士となる。この職業の社会的意義を彼はきわめて高く評価し、自らもその理想実現に努力した。1874年ベルン大学教授、のちには総長にも就任したが、その間陸軍司法の職務も担当し、代議士にも選出された。1909年ハーグの国際仲裁裁判所判事に任命されたが、同年秋に没した。ヒルティの名を世界的に広めたのは、学術的著作よりも、『幸福論』Glück3巻(1891~1899)、『眠られぬ夜(よる)のために』Für schlaflose Nächte(1901、1919)などの一連の宗教的・倫理的著作である。そこで吐露されている精神は、カント哲学、敬虔(けいけん)主義的内面性、ダンテ、ことに聖書への深い沈潜によって形づくられている。生命のない神学教義を嫌い、聖書の単純なキリストの福音(ふくいん)の味読とその実践に生きた彼の確固たる信仰は広く持続的な反響をよんだが、それはまた古典的教養のヒューマニズム、ストア的禁欲精神に彩られている。彼によれば人生目標は幸福にあるが、それは神の愛の体験、世界の倫理的秩序への信頼、堅実な労働、避けられない不幸や苦しみによる内面性の深化正義への勇気などから成り立つ。彼は救世軍を支持し、婦人解放などの社会問題にも積極的にかかわった。日本にはケーベルによって紹介され、以後読まれている。

[常葉謙二 2015年3月19日]

『国松孝二・氷上英廣・小池辰雄他訳『ヒルティ著作集』全11巻(1958、1959・白水社)』『シュトゥツキ著、国松孝二他訳『ヒルティ伝』(1959/新装復刊・2006・白水社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒルティ」の意味・わかりやすい解説

ヒルティ
Hilty, Carl

[生]1833.2.28. ベルデンベルク
[没]1909.10.12. モントルー
スイスの法学者,宗教思想家。ゲッティンゲン大学で法律を学び,弁護士となる。 1873年ベルン大学教授,国際法を担当。リベラル派の代議士として政界でも活躍し,1899年以降ハーグ国際仲裁裁判所のスイス代表委員も務めた。その全人格からにじみ出る内省的著述は多くの人の共感を呼んだ。主作品に『幸福論』 Gluck (1891~1899) ,『眠られぬ夜のために』 Für schlaflose Nacht (第1部 1901,第2部 1919) など。

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