内科学 第10版 「硫化水素中毒」の解説
硫化水素(H2S)中毒(ガス・その他の工業中毒)
硫化水素は,火山,下水やヘドロなどの自然界のほか,石油精製,革靴,農薬・医薬品・ゴムや合成繊維製造などの工場から発生する.「腐った卵」のような独特の臭いのする気体で,おもに気道粘膜から吸収されるが,100 ppmの高濃度では嗅覚神経障害が生じ,臭いを感知できなくなる.チトクロームC酸化酵素を阻害する.
低濃度(50~100 ppm)の長時間暴露では鼻腔,角結膜,咽頭などの粘膜刺激症状が生じるが,高濃度暴露(200 ppm以上)では細胞呼吸障害のため,短時間に頭痛,めまい,悪心,痙攣,健忘,錯乱,意識障害をきたし,ときに死に至る.300 ppm以上では急性肺傷害による呼吸困難,500 ppm以上で痙攣発作,昏睡,循環不全,呼吸停止を認め,750 ppm以上では数回の吸入で呼吸停止し,死亡する.
治療は100%O2を投与し,亜硝酸アミルの吸入と亜硝酸ナトリウムを静注する.[熊本俊秀]
■文献
Harris J, Chimelli L, et al: Nutritional deficiencies, metabolic disorder and toxins affecting the nervous system. In: Greenfield’s Neuropathology, 8th ed (Love S, Louis DN, et al eds), pp 675-731, Hodder Arnold, London, 2008.上條吉人:臨床中毒学(相馬一亥監修),医学書院,東京,2009.Prockop LD, Rowland LP: Occupational and environmental neurotoxicology. In: Merritt’s Neurology, 11th ed (Rowland LP ed), pp1173-1184, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2005.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報