改訂新版 世界大百科事典 「火山観測」の意味・わかりやすい解説
火山観測 (かざんかんそく)
火山活動を機器を用いて観測すること。地震観測,地殻変動観測,電磁気的観測,熱的観測,重力測定等の地球物理学的諸観測のほか,火山ガス,地下水,温泉水等の化学的測定がある。マグマが地下深部から上昇し,マグマ溜りの圧力が増大し,さらに火道を上昇してくるに伴い,諸種の現象が生じる。すなわち,火山体下部の温度が上昇し,山体はふくらみ,マグマの上昇に伴って,まわりに無理が加わるため,地震が起こり,マグマから遊離したガスが多量に放出されるなどである。これらの現象を観測することによって火山活動を数量的に記述することができるため,火山現象の理解を深め,かつ噴火の前兆現象をとらえることができる。このためには個々の火山で息の長い各種の観測を続ける必要がある。1983年現在気象庁は17火山で地震観測を主とした常時監視を行っているほか,大学が七つの火山に観測所をおいている。
火山活動として最も普遍的に観測されるのは火山性地震である。日本では1910年に大森房吉によって有珠山で観測されたのがはじめであり,翌年から浅間山で観測が開始された。日本に多い安山岩質火山では,火山性地震が噴火の前兆として最も顕著に現れるため,火山性地震の観測が火山観測の中で基本的に重要とされてきた。有珠山では噴火の前兆現象として有感地震が頻発することが特徴であるが,これは粘性の高いマグマが貫入してくるからである。浅間山では平穏期でも1日当り20~50程度の浅い微小地震が起きているが,噴火の前には1日数百と地震の数が激増する。したがってこのような安山岩質火山では浅い火山性地震の発生頻度とエネルギーが噴火予知にきわめて重要な手がかりを与えている。一方,ストロンボリ式噴火を示す阿蘇山や三原山(伊豆大島)では,噴火の前に火山性微動が出現して振幅がしだいに大きくなり,それが突然なくなってしばらくすると噴火が始まる場合が多い。噴火の前に微動の振幅が激減するメカニズムは明らかではないが,噴火予知上きわめて顕著な現象である。小規模の水蒸気爆発の場合には,前兆地震が起きないことがしばしばある。この場合噴火予知のためには,熱異常その他の前兆現象を検出することが必要である。
以上述べたように,噴火の前兆現象としての火山性地震または火山性微動は噴火の短期的予知あるいは直前予知に有効であるに対し,地殻変動は長期的噴火予知のために重要な量である。マグマ溜りの圧力が増大すると,山体はふくらみ,かつ隆起する。この変動を把握することにより,地下のマグマの活力を判断することができる。このためには,水準測量やレーザー測距儀による距離の測量を繰り返すことで,垂直変動,水平変動を検出することができる。このような野外の測量のほか,傾斜計による連続記録は感度もよく,地盤の微小な傾斜をとらえることができる。
地熱異常や噴気温度の変化も,マグマの上昇に伴って期待される現象である。したがって,火口底の温度や噴気温度等を定期的に観測することが重要である。このためには,サーミスターや水銀温度計により直接測定するほか,遠隔測定が行われる。すなわち,放射温度計や赤外カメラを使用し地上,航空機,人工衛星から対象物の温度を測定したり,火山地域の温度分布が測定されている。伊豆大島や三宅島のような玄武岩質火山ではマグマ中に強磁性鉱物が比較的多量に含まれている。強磁性鉱物はある温度(キュリー温度)以上になると磁性を失う性質があるので,磁力計により磁気の強度変化を測定することによって,火山下の温度変化を知ることができる。実際に1950年に始まった噴火後,三原山の地磁気偏角が徐々に減少した。このことは,大島火山の下での温度の減少を意味している。
その他,人工電流により,火口直下の電気抵抗を繰り返し測定することによっても,マグマの動きをとらえることができそうになってきた。火山体とその周辺での重力の定期的測定によって重力値の変化を検出し,地下のマグマの移動を推定しようとする試みがなされているが,まだ明確な結果は得られていない。
以上のような地球物理的諸観測のほかに,化学的観測も行われている。火山から放出されるガス(火山ガス)は大部分は水蒸気であるが,このほか,SO2,CO2,HF,HCl,N2,H2等マグマ中に溶けこんでいるガス成分が放出されている。高温の場合にはHF,HCl,SO2がH2S,CO2,N2より多いことが経験的に立証されている。火山ガスの成分を観測することによって,Cl/SO4やCl/FおよびS/Clの値が噴火に先立って変化したことがいくつかの火山で報告されている。火山ガスの測定によれば,活火山からは50t/日程度のSO2が大気中に放出されている場合が多く,活動期になれば1000~4000t/日の放出率が報告されている。また,万座・草津白根地域では,H2Sによる死亡事故があったこともあり,H2Sの濃度がある値を超えると警報装置が作動するようになっている。大噴火時には,細粒の火山灰や硫酸ミストが成層圏に達して全地球的に影響を与えるが,レーザーレーダーの観測により,高度別のエーロゾル濃度の測定が最近行われるようになった。
執筆者:下鶴 大輔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報