硫化水素(読み)リュウカスイソ(英語表記)hydrogen sulfide

翻訳|hydrogen sulfide

デジタル大辞泉 「硫化水素」の意味・読み・例文・類語

りゅうか‐すいそ〔リウクワ‐〕【硫化水素】

水素硫化物。腐卵臭のある無色の有毒気体。硫黄を含むたんぱく質が腐敗したときに生じ、また火山ガスや鉱泉中に含まれる。実験室では硫化鉄塩酸で分解して得る。水に溶けて弱酸性を示す。各種金属塩の水溶液に通ずると特有の色をもつ硫化物を沈殿させるので、分析試薬として利用。化学式H2S

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精選版 日本国語大辞典 「硫化水素」の意味・読み・例文・類語

りゅうか‐すいそリウクヮ‥【硫化水素】

  1. 〘 名詞 〙 硫黄と水素との化合物。化学式 H2S 卵の腐敗したような悪臭のある無色の気体。有毒。空気中で青い炎をあげて燃え、二酸化硫黄となる。水に溶けると弱い酸性を呈し、各種の金属塩溶液と反応して特有の色をした硫化物の沈殿を生じる。天然には火山ガスや温泉中に含まれ、硫黄を含む有機物の腐敗によっても生ずる。〔舎密開宗(1837‐47)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「硫化水素」の意味・わかりやすい解説

硫化水素 (りゅうかすいそ)
hydrogen sulfide

化学式H2S。天然には火山ガスおよび火山地方の温泉ガスに含まれている。また卵黄などの硫黄を含むタンパク質の分解によっても発生する。硫化水素は金属の硫化物に酸を作用させるとたやすく得られる。最も簡単には硫化鉄と,希塩酸または希硫酸を反応させる。不純物を取り除くため水で洗浄した後に塩化カルシウム管で乾燥させる。硫化カルシウム塩化マグネシウムを水溶液中で60℃に熱して反応させても得られる。

 CaS+MgCl2+2H2O─→CaCl2+Mg(OH)2+H2S

硫化ナトリウムNa2S・9H2Oとリン酸,硫化カルシウムCaSと塩酸を用いれば不純物の少ないH2Sが得られる。

 無色の気体で卵の腐ったような特異なにおいがある。毒性が強い。硫黄泉と呼ばれる温(鉱)泉水中にはHS⁻とともにH2Sが含まれており,その特異な臭気が注意をひくが,実際の含量は少ない。身体に有害となる濃度の400分の1で臭気が感じられるとされている。硫化水素は大気汚染防止法では特定物質として,また悪臭防止法では悪臭物質として指定されている。分子は二等辺三角形をなし,H-S原子間距離1.345Å,∠HSH93°。密度1.539g/l(気体),融点-82.9℃,沸点-59.6℃。水に可溶で,溶解度は258ml/100ml(18℃)。水溶液は弱い二塩基酸で,硫化水素水といい,次の2段階の電離をする。

 H2S+H2O⇄H3O⁺+HS⁻

  K1=1×10⁻7 

 HS⁻+H2O⇄H3O⁺+S2⁻ K2≅10⁻14 エチルアルコール,二硫化炭素に可溶・可燃性で,空気中で青い炎をあげて燃え二酸化硫黄となる。種々の金属と反応して硫化物をつくりやすい。金属イオンを含む水溶液に直接硫化水素ガスを吹き込むか,水に硫化水素ガスを常圧で飽和させてつくる硫化水素水を加えると多くの金属イオンは硫化物をつくって沈殿する。分析化学では分属試薬として用いられる。

 硫化水素ガスの簡単な検出法は,紙に酢酸鉛をしみ込ませて乾燥させてつくる酢酸鉛紙を水で湿らせたものを用いる。硫化水素が存在すると硫化鉛を生成して微量の場合は褐色に,ある程度の量があると黒変する。また水溶液として存在する硫化水素は,p-アミノジメチルアニリンと塩化鉄(Ⅲ)を加えるとメチレンブルーが生成して青色となることでも検出できる。モリブデン酸アンモニウム水溶液を用いるモリブデンブルー法でも検出できる。
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化学辞典 第2版 「硫化水素」の解説

硫化水素
リュウカスイソ
hydrogen sulfide

H2S(34.08).体系名はスルファン.通常は硫化水素ないし硫化二水素とよぶ.室温では特異な腐卵臭をもつ無色の気体.天然に,火山ガス,鉱泉・温泉水,原油・天然ガスなどに含まれる.また,動物,植物のタンパク質の腐敗により発生する.実験室では,硫化鉄(Ⅱ)と希塩酸との反応でつくることが多かったが,この製法では各種不純物が含まれるので,市販のH2Sのボンベを使うことが多い.工業的には,硫黄蒸気と水素との高温触媒下での反応でもつくりうるが,いまは天然ガス,石油精製,工業排気ガスなどからの回収が主である.気体はH-S-Hの折れ線形で,∠H-S-H92°(液体では90°),H-S1.35 Å.融点-85.5 ℃,沸点-60.7 ℃.密度0.993 g cm-3(-60 ℃).1 g のH2Sは20 ℃ で242 cm3 の水に溶ける(CO2の約2倍).水溶液は弱酸で,pK1 7.02,pK2 13.9.加熱すると,約400 ℃ で分解しはじめ,1700 ℃ で完全に H2 とSに分かれる.空気中で点火すると青い炎をあげて燃え,SO2とH2Oを生じる.水溶液は不安定で,空気酸化を受けて硫黄を析出して白濁する.金属,金属酸化物,金属塩などと反応して硫化物をつくる.単体ハロゲン(Cl2 など)とも反応する.硫黄・硫酸の主要製造原料,化学薬品などの製造工程で使用(医薬品,工業薬品,蛍光体,重水など),金属の分離精製,HCl,H2SO4などからの金属除去,分析用試薬など広い用途がある.きわめて可燃性・引火性が高い.中枢神経系,心臓血管系,呼吸器系に障害もたらす,HCNに匹敵する強い毒性をもつ.空気中に0.1 ppm 存在しても検知できる強い悪臭をもつが,120 ppm で嗅覚麻ひが起こり,800~1000 ppm では一呼吸で死亡する.労働安全衛生法・名称等を通知すべき危険物及び有害物.大気汚染防止法特定物質.[CAS 7783-06-4]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「硫化水素」の意味・わかりやすい解説

硫化水素
りゅうかすいそ
hydrogen sulfide

水素の硫化物。天然には火山ガス、温泉などに含まれ、卵白の腐敗によっても生じる。また各種汚泥中の硫酸イオンが腐敗菌などによって還元されて生成し、大気中に含まれる。工業的には触媒の存在下、硫黄蒸気と高温で水素と反応させるか、硫化水素を含む副生ガス、天然ガスなどから回収する。ボンベ入りで市販されている(ボンベの色はねずみ色)。実験室では、キップの装置を用いて硫化鉄に希塩酸または希硫酸を作用させてつくる。

  FeS+2HCl→H2S+FeCl2
特異臭(腐卵臭)のある無色の気体。20℃で水100グラムに258ミリリットル(0℃、1気圧)溶けて硫化水素水となる。きわめて弱い二塩基酸である。可燃性であり、発火点260℃。空気中で点火すると青色の炎をあげて燃え、二酸化硫黄(いおう)と水になる。湿気があると金属の表面に硫化物をつくりやすい。還元作用があり、二酸化硫黄との反応は天然硫黄の生成反応の一つである。重金属塩の水溶液に硫化水素を通じると、有色の硫化物の沈殿を生じるため、定性分析の試薬となる。また、工業薬品、農薬、医薬品の製造、蛍光体の製造などに用いられる。きわめて毒性が強く、許容濃度10ppm。500ppm以上で生命に危険を生じ、1000ppm以上になると急死する。

[守永健一・中原勝儼]


硫化水素(データノート)
りゅうかすいそでーたのーと

硫化水素
  H2S
 式量   34.1
 融点   -85.5℃
 沸点   -60.7℃
 密度   1.539g/L(0℃,1気圧)
 比重   液体 0.96(沸点)
 臨界温度 100.4℃
 臨界圧  89気圧

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百科事典マイペディア 「硫化水素」の意味・わかりやすい解説

硫化水素【りゅうかすいそ】

化学式はH2S。融点−82.9℃,沸点−60.19℃。無色,特異臭(腐卵臭)のある気体。液化しやすく,液体は多くのものを溶かす。水によく溶け水溶液は酸性。多くの金属イオンと硫化物をつくる。重要な分析試薬。酢酸鉛溶液で湿した紙を黒変させることで検出。空気中で点火すると青色の炎を出して燃える。天然には火山ガスや鉱泉に含まれ,硫黄を含むタンパク質の腐敗によっても生ずる。硫化鉄に希塩酸または希硫酸を作用させて得られる。有毒。
→関連項目脱硫

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「硫化水素」の意味・わかりやすい解説

硫化水素
りゅうかすいそ
hydrogen sulfide

化学式 H2S 。天然には火山ガス,硫黄泉などに含まれるが,実験室的には硫化鉄に希硫酸を作用させて製する。無色の有毒ガスであり,腐った卵のような悪臭がある。空気中では淡青色の炎をあげて燃える。-60.1℃で液化し,-82.9℃で固化する。空気より重く,水,アルコールに可溶。硫化水素水は不安定で,空気中の酸素により,容易に硫黄を析出し白濁する。飽和水溶液の pHは約 4.5。還元性がある。適当な酸濃度で金属塩溶液中に通じると,各金属イオンに特有の色をもった硫化物を沈殿するので,重要な分析試薬である。

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栄養・生化学辞典 「硫化水素」の解説

硫化水素

 H2S (mw34.08).特有の臭気のある気体で,有毒.多くの金属イオンと結合して硫化物を作る.

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世界大百科事典(旧版)内の硫化水素の言及

【大気汚染】より

…ここで有害物質とは,カドミウム,鉛とこれらの化合物,塩素,塩化水素,フッ素,フッ化水素,フッ化ケイ素および窒素酸化物である。 硫化水素H2S無色腐卵臭のある有毒気体で,火山ガスや鉱泉に含まれ,硫黄を含むタンパク質の腐敗でも生ずる。石油精製,ガス工業,アンモニア工業,パルプ工業が人工発生源となる。…

※「硫化水素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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