改訂新版 世界大百科事典 「硯割」の意味・わかりやすい解説
硯割 (すずりわり)
御伽草子。高僧の発心譚。〈橘のよしね〉の一人の子,中太三郎は才学すぐれ,請われて〈ときともの大納言〉家に仕えるが,主の留守に相伝の硯を落として割ってしまう。若君がこれを哀れみ代わって名のり出るので,大納言は怒りのあまり若君の首を打ち落とす。三郎はあとを追おうとするが,菩提(ぼだい)を弔ってわが身の咎(とが)を晴らそうと思い直し,出家して性空(しようくう)と名のる。日向国,筑前国などで草庵を結び,法華経の読誦怠らず,後に異人の教えに従って播磨国書写山に住み,ついに六根浄を得る。名声を慕って帝が書写山に行幸した。また室(むろ)の津で遊女の長者の姿に生身の普賢菩薩を拝するなど,上人の身の上にはさまざまの不思議が起こる。書名に採られた冒頭の硯を割る一条は,《撰集抄》の本文をそっくり借りた本文を有するものがある。
執筆者:宮田 和美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報