改訂新版 世界大百科事典 「組紐文」の意味・わかりやすい解説
組紐文 (くみひももん)
もともと組紐の文様化であったものが,しだいに交差する紐状の連続文として独自に発展したと思われる。その特徴は〈組み〉あるいは〈結び〉のもつ呪術的な性格と神秘的ともいえる連続性にある。また平板になりがちな文様のうちでは立体感のあるものの一つといえる。組紐文は古くから各地でみられ,前3千年紀のシュメールの陶板に見るねじり帯ふうの文様や,アッシリアの〈生命の樹〉といわれるレリーフ(前1000)は,それぞれ渦巻文,パルメット文と関連すると考えられる。イスラム建築のタイルやストゥッコによる装飾では組紐文が幾何学文として完成されている。またケルト美術の墓碑の浮彫や《ダローの書》では空間を執拗(しつよう)な組紐装飾で満たしている。ロマネスクの装飾写本では,頭文字のアルファベットを組紐文その他と組み合わせて鮮やかな彩色で描き,ルネサンス期にはレオナルド・ダ・ビンチやA.デューラーなどが1本の紐からいかに複雑で美しい文様ができるかを試み,この文様の知的構成に注意を促した。日本では3方向の直線が籠の編目のように組み合わさった籠目や,蛇行する曲線が向かい合って接する網目文の結び目付きのものなどがしばしば工芸装飾に用いられている。
執筆者:一条 薫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報