タイル(読み)たいる(英語表記)tile

翻訳|tile

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タイル」の意味・わかりやすい解説

タイル
たいる
tile

建築物の仕上げ材として内外の床、壁に用いる平板状の粘土焼成品。ラテン語のtegula(「覆う」の意)から派生したことばで、床、壁、屋根などを覆う板状の材料を意味するが、外国では屋根用の瓦(かわら)をも含んだ意味に用い、日本では床と壁用に限って用いる。

 粘土焼成品は一般に耐火性、耐久性に優れ、十分使用に耐える耐水性、耐摩耗性のものが得られる。このため、古くはエジプトバビロニアなどの王宮や宮殿の床材に使われるなど、世界各地で広く使われてきた。

 タイルには、自由な形状、寸法のものを大量に生産することができ、また釉薬(うわぐすり)を施して焼成することにより、薄物であっても品質、性能を飛躍的に向上させられ、さらにさまざまな色調、模様のものが得られ、建築の美しさを増すことができるなどの特長がある。また、比較的施工が簡単で、施工後に亀裂(きれつ)が生じたり変色したりすることはほとんどなく、左官仕上げに比べて費用の面では高いが、コンクリート構造部を保護し耐久性を高めるなどの利点がある。清掃性もよく、衛生面を要求される台所や浴室、洗面所、便所などに欠かせない材料といえる。

 タイルの種類を素地の質からみると、磁器質タイル炻器(せっき)質タイル、半磁器質タイルおよび硬質陶器タイル、陶器質タイルに分けられる。一般に製法は、原料に珪砂(けいさ)、珪石、陶石、長石などの粉末に蛙目(がえろめ)や木節(きぶし)などの粘土を混ぜて用い、微粉砕して水練りし、成形して焼成(素焼き)し、施釉(せゆう)してふたたび焼成(本焼き)をする。磁器質タイルは、乾式法でプレス成形し、焼成温度は1250℃以上で、硬度が高く素地が磁器質化しているため吸水率は1%以内で、とくに耐久性がよい。床用、内外壁用として用いられる。モザイクタイル、階段用ノンスリップタイルもある。炻器質タイルは、湿式法で押出し成形し、焼成温度は1200~1350℃で、吸水率は5%程度である。床用タイルとして多く用いられるが、最近は厚手のタイルで外装用としてもよく用いられる。半磁器質タイル、硬質陶器タイルは、乾式法で、素地はほぼ白色、吸水率は15%以下で釉薬を施し、便所、浴室、洗面所の床に用いる。陶器質タイルは、乾式法で1000~1200℃で焼成して釉薬を施す。多孔質で20%近い吸水率がある。用途により、床用タイル、内壁用タイル、外壁用タイルに分けられる。とくに外壁用タイルを寒冷地に用いる場合は、凍結融解を防ぐために吸水率が1%以下で裏足のあるタイルを使用する。

 タイルの施工は、下地に張付けモルタルを施し、タイルを張り付けたのち、目地(めじ)モルタルで仕上げする。タイルの付着性と施工能率をよくするためさまざまな張り工法がくふうされているが、近年外壁用では、これをさらに進め、型枠にタイルを先付けしコンクリート躯体(くたい)と一体化する工法がよく用いられるようになってきている。

[高橋泰一]

 本来タイルは建築物の外装、内壁や床面を飾ったり、水回りを覆う実用的建築素材であるが、その起源は古く、紀元前4000年代のエジプトやメソポタミア地方では、彩色されたタイルが神殿墳墓の一部に用いられていた。また、タイルが著しい発展をみたイスラム世界では、すでに13世紀ごろからモスクや王宮に用いられ始め、やがて民衆の住宅にまで用いられるようになった。他方ヨーロッパでは、中世の末期から、大理石の乏しい中部ヨーロッパで、鉛釉をかけた緑や黄色のタイルが教会や宮殿の床面を覆っていたが、近世初頭、イスラムの支配下にあったイベリア半島で錫釉陶器が焼かれるようになると、オリエントから伝えられたさまざまな技法の装飾タイルが生産され、住宅の玄関や腰壁を飾った。錫釉色絵タイルは17世紀に入ってオランダで著しい開花を示し、建築装飾を越えて、陶板画や大きなタイル絵が制作された。

[前田正明]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タイル」の意味・わかりやすい解説

タイル
tile

建築の床面,壁面などの仕上げ材料として用いられる薄板状の粘土焼成品。現代ではコンクリート・タイル,プラスチック・タイル,ガラス・タイル,吸音材タイルなど,床,壁,天井などに用いられる薄板状の小型の仕上げ材料を,材質とは無関係にタイルと名づける傾向もある。煉瓦と同じく歴史は古く,装飾仕上げに用いられた施釉タイルに限定しても前3千年紀の前半までさかのぼることができる。古代エジプト,メソポタミアを中心とする西アジアでほぼ平行して発達,7世紀以降は主としてイスラム圏 (特にペルシア) を中心として発展した。ヨーロッパで普及しはじめたのは 12世紀頃からで,おもな用途は聖堂その他の公共建築物の床仕上げであった。 17世紀になると,青みを帯びた白地の上に人物画や風景画などを灰青色で描いたデルフト・タイルが人気となり,19世紀以降,生産方法が機械化されるにつれて,種類もふえ,性能も向上,20世紀に入ると,厨房,浴室,水泳プール,工場,実験室用など,装飾よりも機能本位,実用本位のものが発展した。現在,日本で使用されているものはきわめて種類が多いが,特殊なものを除いて,ほとんどが日本工業規格 JISに定める名称,形状,寸法,等級,品質,試験方法などに従っている。

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