デジタル大辞泉 「タイル」の意味・読み・例文・類語
タイル(tile)
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翻訳|tile
建築材料ならびに装飾用として建築物の内外の壁面や床面を覆う陶製の薄板。ラテン語のtegula(狭義には〈陶製の屋根板〉,広義にはものを〈覆うこと〉の意)に由来する。近世以降,英語のタイルという語は屋根や壁や暖炉などの建築の表面にはられた薄板の意で,必ずしも陶製とは限らず,その素材によってブロンズ・タイル,マーブル(大理石)・タイル,スレート・タイルなどの呼称もある。一般に陶製のタイルは表面の釉薬や装飾様式によって鉛釉タイル,スズ釉のラスター彩ならびに色絵タイル,レリーフ・タイル,モザイク用タイル,象嵌タイルなどに分類されるが,その大きさや形状は時代や地域によってかなり異なる。また陶製のタイルの種類にはテラコッタ,陶器,炻器(せつき)があり,現代では特殊な装飾タイルを除いては一般には磁器タイルが用いられている。
最古のタイルはエジプト第18王朝時代のものとされるテル・エルアマルナ出土の,黄色地に白色のヒナギクを象嵌したタイルが残され,また新王朝末期ラメセス3世によって完成されたテーベ西岸のマディーナト・ハーブーの葬祭殿には人物を浮彫にし,部分的に釉(うわぐすり)をかけたタイル,あるいは彩色の陶板がある。これらの釉はソーダ・ガラス質のものである。他方メソポタミア地方では前13世紀以降建築部材と装飾を兼ねた施釉煉瓦が著しい発達をみたため,タイルは9世紀ころのイスラム建築の開花を待たなければならない。古代ギリシア・ローマ世界では無釉・無彩のテラコッタのタイルが建築の屋根を覆っていた。中世に入ってイギリスやアルプス以北のフランス,ドイツでは,緑や黄の地に鉛釉をかけたタイルが教会や宮廷の床面を飾っている。12世紀後半のものとされるパリに近いサン・ドニ大聖堂の床面を飾ったタイル・モザイクは古い作例とされる。また象嵌タイルは12,13世紀ころフランス北部で発明され,タイル・モザイクと同様にやがてイギリスや近隣諸国に伝播していった。ロンドンのウェストミンスター・アベーには13世紀前半のすぐれた象嵌タイルが残されている。ドイツおよび北ヨーロッパではこれらフランスやイギリスのモザイク用タイルや象嵌タイルに対して,無釉あるいは緑釉をかけたレリーフ・タイルが好まれ,とくに南ドイツのニュルンベルクからスイスの山岳地方ではストーブ用の鉛釉の〈ストーブ・タイル〉の生産が盛んであった。
一方,9世紀以降イスラム世界に開花したタイルはカリフの宮殿やモスクなどの建築とともに著しい発展をみた。その最古の例にバグダードの北のサーマッラーのラスター・タイルがある。これらのアッバース朝のラスター・タイルはかなり大きく,1辺約27cmの四角形もしくは八角形のタイルである。11世紀から14世紀にかけてイスラム世界ではカラ・ハーン朝,ガズナ朝,セルジューク朝が相次いで興り,イスラム・タイルは先史施釉煉瓦の伝統を発展させ,トルコ・ブルーの単彩・加彩タイル,レリーフ・タイル,モザイク用タイルなど大小さまざまなタイルがカーシャーン,イスファハーンでつくられた。さらに16世紀以降はオスマン帝国の成立とともにアナトリアのイズニク,キュタヒヤを中心に赤,緑,青,黄などの多彩色の美しい色絵タイルが製作された。イスラム世界で焼成されたタイルはスズ釉タイルで,建築の内外をこれらの装飾タイルで飾る建築様式はイスラム教徒の住んだ北アフリカやイベリア半島に伝播した。ヨーロッパの近世タイルの誕生は8世紀以降スペインに住んだイスラム教徒が製作した陶器にはじまる。南スペインでは13世紀以降,いわゆるラスター彩ならびに多彩色のイスパノ・モレスク・タイルが宮殿や住宅の外壁,腰壁,床面を飾った。これらの技法は14世紀イタリアでも模倣され,マヨリカ・タイルとして大きく開花した。さらに16世紀に入ってマヨリカ陶器がアルプス以北のヨーロッパに伝播し,ファイアンス・タイルとしてスズ釉色絵タイルが各国で模倣されたが,16世紀の終りころからオランダではデルフトを中心にタイル生産が未曾有の発展をみ,17世紀にその頂点に達した。19世紀には鉄筋コンクリート建築の流行に並行してその外装・内装にそれまでの装飾タイルに代わって工業製品による無装飾のタイルが多量に生産され始め今日にいたっている。日本では明治初年に洋風建築の誕生とともに瀬戸のあたりでタイルが焼かれたが,寸法の不ぞろいなどできばえはあまり良好ではなかった。1906年イギリスから輸入したタイルをもとに〈不二見タイル〉(愛知県)で研究を重ねて良質のタイルの生産に成功し,その後の洋風建築の普及と窯業技術の進歩によって各地の窯場で生産されるようになった。
執筆者:前田 正明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
建築物の仕上げ材として内外の床、壁に用いる平板状の粘土焼成品。ラテン語のtegula(「覆う」の意)から派生したことばで、床、壁、屋根などを覆う板状の材料を意味するが、外国では屋根用の瓦(かわら)をも含んだ意味に用い、日本では床と壁用に限って用いる。
粘土焼成品は一般に耐火性、耐久性に優れ、十分使用に耐える耐水性、耐摩耗性のものが得られる。このため、古くはエジプトやバビロニアなどの王宮や宮殿の床材に使われるなど、世界各地で広く使われてきた。
タイルには、自由な形状、寸法のものを大量に生産することができ、また釉薬(うわぐすり)を施して焼成することにより、薄物であっても品質、性能を飛躍的に向上させられ、さらにさまざまな色調、模様のものが得られ、建築の美しさを増すことができるなどの特長がある。また、比較的施工が簡単で、施工後に亀裂(きれつ)が生じたり変色したりすることはほとんどなく、左官仕上げに比べて費用の面では高いが、コンクリート構造部を保護し耐久性を高めるなどの利点がある。清掃性もよく、衛生面を要求される台所や浴室、洗面所、便所などに欠かせない材料といえる。
タイルの種類を素地の質からみると、磁器質タイル、炻器(せっき)質タイル、半磁器質タイルおよび硬質陶器タイル、陶器質タイルに分けられる。一般に製法は、原料に珪砂(けいさ)、珪石、陶石、長石などの粉末に蛙目(がえろめ)や木節(きぶし)などの粘土を混ぜて用い、微粉砕して水練りし、成形して焼成(素焼き)し、施釉(せゆう)してふたたび焼成(本焼き)をする。磁器質タイルは、乾式法でプレス成形し、焼成温度は1250℃以上で、硬度が高く素地が磁器質化しているため吸水率は1%以内で、とくに耐久性がよい。床用、内外壁用として用いられる。モザイクタイル、階段用ノンスリップタイルもある。炻器質タイルは、湿式法で押出し成形し、焼成温度は1200~1350℃で、吸水率は5%程度である。床用タイルとして多く用いられるが、最近は厚手のタイルで外装用としてもよく用いられる。半磁器質タイル、硬質陶器タイルは、乾式法で、素地はほぼ白色、吸水率は15%以下で釉薬を施し、便所、浴室、洗面所の床に用いる。陶器質タイルは、乾式法で1000~1200℃で焼成して釉薬を施す。多孔質で20%近い吸水率がある。用途により、床用タイル、内壁用タイル、外壁用タイルに分けられる。とくに外壁用タイルを寒冷地に用いる場合は、凍結融解を防ぐために吸水率が1%以下で裏足のあるタイルを使用する。
タイルの施工は、下地に張付けモルタルを施し、タイルを張り付けたのち、目地(めじ)モルタルで仕上げする。タイルの付着性と施工能率をよくするためさまざまな張り工法がくふうされているが、近年外壁用では、これをさらに進め、型枠にタイルを先付けしコンクリート躯体(くたい)と一体化する工法がよく用いられるようになってきている。
[高橋泰一]
本来タイルは建築物の外装、内壁や床面を飾ったり、水回りを覆う実用的建築素材であるが、その起源は古く、紀元前4000年代のエジプトやメソポタミア地方では、彩色されたタイルが神殿や墳墓の一部に用いられていた。また、タイルが著しい発展をみたイスラム世界では、すでに13世紀ごろからモスクや王宮に用いられ始め、やがて民衆の住宅にまで用いられるようになった。他方ヨーロッパでは、中世の末期から、大理石の乏しい中部ヨーロッパで、鉛釉をかけた緑や黄色のタイルが教会や宮殿の床面を覆っていたが、近世初頭、イスラムの支配下にあったイベリア半島で錫釉陶器が焼かれるようになると、オリエントから伝えられたさまざまな技法の装飾タイルが生産され、住宅の玄関や腰壁を飾った。錫釉色絵タイルは17世紀に入ってオランダで著しい開花を示し、建築装飾を越えて、陶板画や大きなタイル絵が制作された。
[前田正明]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
【Ⅰ】セラミックス性の表面をつくる構造単位.普通は表面積に対して厚みがかなり薄く,粘土あるいは粘土とほかの物質との混合物でつくり,施釉(ゆう)あるいは無釉で製造行程中に赤熱以上の温度で焼成して,特定の物理的性質および特徴をもたせたもの.【Ⅱ】長さおよび幅に対して厚さが薄い長方形の耐火物.長方形以外の形のものもタイルとよぶことがある.たとえば,機関車のアーチタイル(arch tile).
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「パソコンで困ったときに開く本」パソコンで困ったときに開く本について 情報
出典 リフォーム ホームプロリフォーム用語集について 情報
…同様なプランは,モスクのほかマドラサ,キャラバンサライにも適用されている(メルブ~ニーシャープール間の隊商宿リバート・イ・シャラフ,1114)。そのほかこの時代の特色として,アナトリア(トルコ)を含めて,独立した墓廟の急速な発展と普及,スタッコに代わる彩釉タイルの繁用,ムカルナスの発達などが挙げられる。一方,寒冷で降雨量の多いアナトリアでは,アラブ型やイラン型のモスクの中庭が,縮小されるか,ドームを架けたホールに変形している。…
…またそのマントルピースは装飾品や記念品を置く好適の棚となった。イスラム世界の住宅では,室内の壁面を華麗なタイルで化粧することが愛好された。ヨーロッパでもイスラムの伝統ののこっているスペインの一部で今でもそれが行われている。…
※「タイル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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