日本大百科全書(ニッポニカ) 「経営者資本主義」の意味・わかりやすい解説
経営者資本主義
けいえいしゃしほんしゅぎ
managerial capitalism
現在の資本主義社会は資本と経営の分離が高度に進み、生産手段の所有者ではない専門経営者が企業の実質的支配者となっているが、全体としては資本主義経済体制として動いているとする経済社会観。経営者革命、財産なき支配、人民資本主義などの用語と基本的に共通する考え方に立脚している。経営者資本主義のもとでの企業行動の中心は、いうまでもなく経営者である。経営者は、資本ないし財産の所有によって選任されるのではなく、経営体を管理運営する能力、経験の所有によって選任される。経営者は、自己自身をその一部とする多くの利害関係者ないし環境主体(株主、顧客、従業員、取引先、地域社会、政府など)の利害の均衡と全体の利益の極大化を目ざす行動をとるようになる。株主ないし出資者の利益のみを追求する行動として定義される従来の利潤極大化は、経営者資本主義では採用されない。しかし、株主ないし出資者は利害関係者の一部として存在しているから、利潤追求そのものが否定されるわけではなく、したがって資本主義は体制として残される。資本家資本主義を経営者資本主義へ変質させる最大の要因は、株式所有の分散による所有と経営の分離である。
[森本三男]