デジタル大辞泉
「分散」の意味・読み・例文・類語
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ぶん‐さん【分散】
- 〘 名詞 〙
- ① 一つ所にあったものを分け散らすこと。また、分かれ散ること。わかれわかれになること。離散。
- [初出の実例]「辺郡人民、暴被二寇賊一、遂適二東西一、流離分散」(出典:続日本紀‐養老六年(722)閏四月乙丑)
- 「使者を四国に分散(ブンサン)して」(出典:源平盛衰記(14C前)三三)
- [その他の文献]〔春秋左伝‐桓公五年〕
- ② 江戸時代、競合した多数債権を償うことができない債務者が債権者の同意を得て、自己の全財産を彼らに委付して、その価額を各債権に配当すること。現在の破産にあたる。分散仕舞。
- [初出の実例]「相店の人の世中すゑの露〈卜尺〉 分散何々なく虫の声〈一朝〉」(出典:俳諧・談林十百韻(1675)上)
- ③ 「かしぶんさん(家資分散)」の略。
- ④ 波の進む速さが、波長や振動数の違いによって変化する現象。特に、光がプリズムや回折格子を通過するとき、波長の異なる光に分かれ、多くの色に分かれることをいう。
- ⑤ 数学でいう。
- (イ) 統計データの散らばりの度合を表わす数値の一つ。各数値とデータの平均値との差の平方の平均値。
- (ロ) 確率変数の値の散らばりの度合を表わす数値の一つ。問題となった確率変数とその平均値との差を平方して得られる確率変数の平均値。
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分散(化学)
ぶんさん
dispersion
化学の分野では、相互に相混じらない二つの物質の一つが、微粒子の状態で他の物質中に一様に存在することをいう。この場合、微粒子を分散質、連続相となっている物質を分散媒という。分散媒が大気あるいは水の場合、安定な分散系となるためには分散質の粒径が1マイクロメートル以下にならないといけない。1マイクロメートル~1ナノメートルの粒径の粒子によってつくられる分散系は、コロイド分散系とよばれる。分散質が金や銀のように水との親和性が比較的弱い場合に、これを疎水ゾルという。これに対し、分散質が界面活性剤ミセル、あるいはタンパク質のように水との親和性が強いときには、これを親水ゾルという。これらの分散質は限外顕微鏡で観察すると不規則運動を行っていることがわかる。これは、花粉の不規則運動を研究したイギリスの植物学者である発見者の名前にちなんでブラウン運動とよばれている。ブラウン運動の原因は、かなりあとになって、分散媒である水分子が、分散質に衝突する仕方が統計的にみて均一でなく、ある揺らぎをもっているためであると説明された。この揺らぎは温度が高くなるほど大きくなる。
分散粒子の表面は電気的に中性でなく、一般に正または負の電荷を帯びている。これは分散質自身の解離による場合もあるし、または分散媒中の電解質イオンが分散質の表面に吸着しておこることもある。このようにしてできた帯電粒子の近くには、反対符号のイオンが近くに引き寄せられ、電気二重層がつくられる。これは分散系の安定性に重要な役割を演じている。
自然界における分散系の例として、たとえば血液中の血球や、大気中に浮遊する微粒子などがあげられ、いずれも人間の健康に深い関係をもっている。
工業上では、固体あるいは液体を微粒子として分散媒中に分散させ、安定な系をつくることがしばしばおこる。たとえば塗料や印刷インキでは、着色剤である固体の顔料を、油または合成樹脂中に均一に分散させなければならない。このときには、顔料の微粒子化ならびに表面改質のための技術が必要である。また、化粧品であるコールドクリームや乳液は、油中水滴型あるいは水中油滴型のエマルジョンであるが、これは長期間安定でなければならない。このためには乳化剤としての界面活性剤をどう選ぶかがもっとも重要になる。
[早野茂夫]
分散(光学)
ぶんさん
dispersion
光学用語で入射光がプリズムなどで波長(または振動数)ごとに分離する現象。光の媒質での屈折率が波長により異なることから発生する。媒質の屈折率が光の波長により異なるのは、入射光と媒質の分子の相互作用のためである。媒質の物性(屈折率、誘電率、透磁率、弾性率など)が入射光の振動数により変化するのは、各物性値が入射光に対する応答関数と考えられるからである。このような関係を分散関係とよぶ。屈折率は可視光域では、光の波長が短くなるほど大きくなるが、この状態を正常分散とよび、逆に屈折率が小さくなる場合は異常分散とよばれる。
[山本将史 2022年7月21日]
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分散 (ぶんさん)
dispersion
(1)波などの振動に関する物質定数が,振動数によって変わる現象。例えば,光に対する媒質の屈折率が波長によって変化する現象が光分散である。光がプリズムを透過するとき,光の進行方向が波長によって異なるのも光分散現象の一例で,プリズム分光の基本原理となっている。媒質中の光の屈折率と波長との関係は,1835年にA.L.コーシーが弾性波動説に基づき分散式を導出してから多くの研究がなされている。
→光分散
執筆者:朝倉 利光(2)ある均一な物質の中に他の物質が微粒子状になって分布していく現象。分散によってつくられる混合物を分散系disperse systemといい,連続な均一相をつくる物質を分散媒,微粒子をつくる物質を分散質と呼ぶ。コロイド範囲の大きさの粒子にまで分散した系をとくにコロイド分散系といい,懸濁液や乳濁液はその例である。分子状にまで分散すると,微視的にみても均質な溶液となる。
執筆者:妹尾 学
分散 (ぶんさん)
江戸時代における破産をさす語。割賦(割符)(わつぷ)ともいう。しばしば〈身代限(しんだいかぎり)〉と混同され,明治初年には両者が制度的に合体するが,江戸幕府法上は,裁判所による強制執行としての〈身代限〉と,債権者・債務者間の契約による〈分散〉とを,明確に区別している。分散には裁判所の介入は必要的でなく,債務者が総債権者もしくは大多数債権者の同意を得て自己の全財産を委付し,債権者はこれを入札売却して,代金を債権額に応じ配分するのである。その際作成される財産目録を〈分散割帳〉といい,債務者本人のほか町村役人,親類などが加印する。質権者や奉公人の給金などは,〈抜取〉と称し一般債権者に優先して全額の弁済を受けることができた。分散に加入しなかった債権者は,債務者から〈出世証文(仕合(しあわせ)証文)〉を取り置いて,他日債務者の資力が回復するのを待って請求すること(〈跡懸り〉)ができる。《公事方御定書(くじかたおさだめがき)》の規定では分散加入債権者にも不足額についての〈跡懸り〉を認めていたが,後にはこれを認めなくなった。分散は商人,非商人を問わず庶民一般について行われたが,とくに商取引の盛んな上方においては分散法制も発達しており,町人社会を描いた文芸作品などの中にもその実態をうかがうことができる。
執筆者:神保 文夫
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分散
ぶんさん
variance
統計資料 x1,x2,…,xn について,平均値を x=(x1+x2+…+xn)/n としたとき,{(x1-x)2+(x2-x)2+…+(xn-x)2}/n を分散または標本分散という。別に,{(x1-x)2+(x2-x)2+…+(xn-x)2}/(n-1) を不偏分散という。
分散
ぶんさん
dispersion
(1) 波の進む速さが振動数によって異なる現象。日光がプリズムでいくつかの色に分けられるのはこの現象の一例であって,光の色の種類 (振動数により決る) によってガラス中での速さが違えばその屈折率が異なることに起因する。音波でも分散現象が起る。光の場合,分散によって生じる色帯はスペクトルと呼ばれている。スペクトルの色の順が波長の順になっているものを正常分散,順でないものを異常分散という。分散の概念はもっと一般的に使われ,誘電率や透磁率などの物質定数が振動数によって異なる現象も分散と呼ぶ。 (2) 微細な粒子,たとえばコロイドなどがある媒質中に散在する現象を分散という。この媒質を分散媒,微粒子を分散質と称する。また微粒子をなるべく長く分散させておく目的で加えられる第三成分を分散剤という。
分散
ぶんさん
現代法における破産手続に相当する江戸時代の法律手続。複数の債権者に債務者財産が分配されるところから,割符と称される場合もある。債務者が競合する債権者全員を満足させる資力を失った場合に,債権,債務者双方の契約により,債務者の全財産を債権者側に交付し,債権額に比例して,これを分配させる手続。分配に際して,入札による財産売却が行われるのが通例であり,また天保 (1830~44) 以降は,分配に参加した債権者は,不足額の請求を行いえないことになった。なお分配に参加しなかった債権者は,依然として債務者に弁済を請求しえたが,このような請求権を「跡懸り」と称した。
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分散(統計)【ぶんさん】
資料x1,x2,…,x(/n)の偏差の2乗の平均値,つまり(式1)をいう。ここでx=(x1+x2+…+x(/n))/nは資料の平均値。資料の散らばり具合を表し,分散が小さいほど資料は平均値付近に集中する。母集団から抽出した標本x1,x2,…,x(/n)については(式2)を使うことが多く(xは標本の平均)これを不偏分散といい,n−1を自由度という。→標準偏差
→関連項目F分布
分散(物理)【ぶんさん】
波などの振動に関する物質定数が振動数によって変化する現象。分散のある波は進行中に形がくずれエネルギー損失(吸収)を伴う。光の場合は屈折率が波長によって異なり,このためプリズムを通った白色光は単色光に分かれスペクトルを生じる。たいていの透明媒質では波長の増大とともに屈折率は減少する(正常分散)が,その媒質がある波長の光だけを強く吸収する場合には,その波長の前後で屈折率が大きく変わり,波長の短いほうから近づくにつれ屈折率が一度減少してから急激に増大し,また減少して正常の値に戻る(異常分散)。→分散能
分散(化学)【ぶんさん】
一つの相をなす物質(分散媒)の中に他の物質(分散相)が微粒子状に散在する現象。この物質系全体を分散系という。食塩水や砂糖水のように分散相がイオンまたは分子である分散系が真の溶液であり,分散相がこれより大きいが顕微鏡で認められない程度のものがコロイド分散系,粒子がさらに大きいものが乳濁液および懸濁液である。
→関連項目コロイド
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普及版 字通
「分散」の読み・字形・画数・意味
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分散
ブンサン
variance, dispersion
【Ⅰ】variance.統計学においては平均値からのずれの2乗の平均を分散といい,その平方根を標準偏差という.【Ⅱ】dispersion.光の屈折率が波長によって異なることを光の分散という.その理論的取り扱いが中性分子間のファンデルワールス力の解釈と類似することから,分散力という用語が生まれた.【Ⅲ】dispersion.細かい粒子が溶液中に浮遊している状態.コロイド溶液はその典型で,分散系とよばれることもある.[別用語参照]コロイド
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
分散
データのばらつきを表す値のこと。個々のデータと平均値の差を求め、値をそれぞれ2乗し、それらを合計したものをデータの個数で割ることによって求められる。厳密に言えば、分散には2種類ある。(1) 不偏分散対象となるデータを母集団の標本(母集団から任意に取り出したデータの集まり)とみなして、母集団の分散を求める。データの個数をn、個々のデータをxiとした場合、次の数式で求められる。(2) 標本分散標本自体の分散。次の数式で求められる(数式内の記号は不偏分散と同じ)。なお、表計算ソフトのExcelでは、不偏分散をVAR関数で、標本分散をVARP関数で求められる。
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分散
一群のデータが平均値からどの程度ばらついているかの指標に使われる.平均値から各データの値を引いて,それを二乗し,総和をとり,データの数から1を引いた値で除したもの.平方根をとると平均値からの標準偏差が求められる.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
分散
分散とは偏差自乗和の平均によって得られるデータのばらつきの大きさを示す基本統計量のことをいう。
出典 (株)トライベック・ブランド戦略研究所ブランド用語集について 情報
世界大百科事典(旧版)内の分散の言及
【移動】より
…一つは,一生のある時期に定住地を変える移動(例えば鳥の渡り)であり,もう一つは新生個体の出生地から(最初の)定住地までの移動である。後者は植物や固着性動物にも見られるもので,分散dispersalまたは幼期分散natal dispersalまたは繁殖前分散と呼ばれる。 行動圏内での移動と行動圏自体の移動とは,明らかにまったく別の現象であり,個体が動きまわるという点だけを見て同一の概念でとらえることはできない。…
【確率】より
…そのため一つの数値で分布の特性量を表すことができれば好つごうである。重要な特性量としては,平均値(期待値ともいう)と分散がある。離散形の場合なら平均値mは, で,分散σ2は, で与えられる。…
【散布度】より
…統計データのばらつきの度合を表す量のことを一般に散布度と呼び,分散,標準偏差,不偏分散,平均偏差,データの範囲などがある。もっともよく用いられるのは,分散,標準偏差である。…
【数理統計学】より
…ガウスはまた誤差の分布が正規分布となることを理論的に証明し,分布の型を決める典型的な方法を示した。さらに分散や高次モーメントをはじめ,今日の数理統計学の基礎となるいくつかの概念を導入し,その役割を明らかにした。これらラプラスやガウスの研究には,1763年に公にされたベイズの定理が支えになっており,原因から結果の生ずる確率があらかじめわかっているとき,原因の先験的な確率(事前確率)が与えられたら,結果が知られた後での原因の確率(事後確率)が計算できるという立場をとっている。…
【積率】より
…a=0のときは単にr次の積率という。とくに一次の積率を平均値といい,平均値のまわりの二次の積率を分散という。これらをそれぞれ,s2とかく。…
【ゆらぎ】より
…これがゆらぎである。 ゆらぎの大きさを表すものとして,分散σがある。いまある量Aの平均値をĀで表すことにする。…
【音波】より
…ふつうには音速度は周波数にはよらないが,非常に高い周波数領域では,周波数による音速度の変化が起こる。この現象を分散といい,その周波数付近では音の減衰が非常に大きくなる。これらの現象は,物質構造の解明に利用されている。…
【屈折】より
…すなわち,nIII=nII/nIである。屈折率は光の波長の関数(すなわち波長によって異なる)であり,このことを屈折率に分散があるという。方解石など異方性のある物質の中では,偏光方向によって速さの異なる2種の光に分かれる。…
※「分散」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」