改訂新版 世界大百科事典 「維持用水」の意味・わかりやすい解説
維持用水 (いじようすい)
日本の河川は流量変動が激しく,渇水時には流水量が非常に少なくなる。こうした渇水時に,発電用水,農業用水,工業用水,都市用水などの各種利水が取水してしまうと,河川に流水が残されない場合がしばしば出現する。維持用水は,各種利水が取水したあとでも,渇水時に河川に最低確保されるべきであるとして定められた流水量である。その決定方法は,河川の数ヵ所に計画基準点を設け,10年に1度発生する程度の渇水を対象に,舟運,漁業,景観,塩害の防止,河口閉塞の防止,河川管理施設の保護,地下水位の維持,動植物の保存,流水の清潔の保持などを総合的に考慮して定められる。維持用水の概念は,1960年代の論争を経て,70年代に入って明確化されてきたものである。
したがって,それより古い時代に開発されたダム,取水ぜきなどにおいては,その下流の一定区間でほとんど流水を見ない場合が多々あるが,90年代に入ってそれらのダムなども水利権の更新時に,流域面積100km2当り0.1~0.3m3/sの維持流量をダム地点から下流に放流する措置がとられはじめている。
執筆者:大熊 孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報