職権調査
しょっけんちょうさ
Prüfung von Amtswegen
当事者の抗弁をまたずまた当事者の意思に拘束されずに,裁判所がみずから進んで一定の訴訟上の事項について調査し判断すること。 (1) 民事訴訟法上,職権調査の対象となるのは,公益的な訴訟要件の存否,訴訟法上の強行規定の遵守の有無,適用する実体法規の内容などである。当事者の合意や責問権の放棄によってこれらの事項の調査を不要にできず,他方これらに関する異議その他の陳述は提出時期の制限を受けない。
(2) 刑事訴訟法上,第1審では,起訴状記載の訴因が全面的に審理の対象となるので,管轄,当事者能力,訴訟能力などについて職権調査が義務づけられている。上訴審においては,当事者の申し立てた上訴理由が審理の対象とされるので,職権調査の範囲が問題となる。すなわち,控訴理由となる事由,上告理由となる事由など刑事訴訟法に掲げる事由については職権で調査できる。その範囲はかなり広いため,上訴審手続の弾力化に寄与している。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の職権調査の言及
【職権主義】より
…(2)民事訴訟の場合 民事訴訟では,原則としてそこで解決が求められている紛争が私人間の自主的な解決にゆだねられていること([私的自治の原則])から,訴訟手続の開始,終了および訴訟対象の決定につき当事者が主導権をもっており([処分権主義]),また訴訟資料の収集についても当事者の責任とされている([弁論主義])が,訴訟進行の面についてはそれが国家制度の運営であるという観点から職権で行われている。なお,この一般の民事訴訟においても,公益に関する事項(裁判権,専属管轄,除斥原因など)については当事者の主張なり申立てをまたずに職権でとりあげて判断すること(職権調査)が必要とされている。他方,私人間の争いであっても,公益を優先させて考える必要のある場合(たとえば人事訴訟事件)とか,判決の効力が広く第三者に及ぶ場合(たとえば株主総会の決議をめぐる訴訟事件)には,弁論主義にかえて職権探知主義が採られている。…
【当事者主義】より
…弁論主義は,両当事者の平等を前提とするが,実際上は両当事者間に力の差がある場合も少なくない。そこで,裁判所の後見的役割も期待され,一定の場合には,裁判所の職権調査の権限が認められる。(3)訴訟手続の進行に関しては,当事者進行主義と職権進行主義とが対立するが,訴訟の進行・管理については裁判所が責任を負うのであるから,この点では,当然のことながら,職権進行主義を原則とすることになる。…
※「職権調査」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」