民事訴訟法における攻撃防御方法の一つ。民事裁判において,相手方の申立てまたは主張を排斥するためには,相手方の申立てまたは主張を単に否定することにとどまらないで積極的に相手方に対抗しうる別個な事項をもち出すことがある。この防御方法を抗弁という。抗弁には,いわゆる訴訟上の抗弁と実体法上の抗弁がある。前者は相手方の申立てが不適法であることを理由に争う防御方法である。訴訟要件が欠けていることを理由に訴えそのものの却下を求める抗弁(本案前の抗弁または妨訴抗弁)と,証拠能力がない証拠であることなどを理由として,その証拠調べの申立てを却下すべきことを求める抗弁(証拠抗弁)とがある。これらは訴訟物たる権利(または法律関係)とは関係がないか,またはその前提となる手続事項に関する抗弁である。他方,実体法上の抗弁は,本案の抗弁ともいわれ,原告が主張している権利(本案)の発生を妨げる事由(権利障害事実。たとえば契約が要素の錯誤に基づいてなされたという事実)とか,またはその発生後にそれを消滅させる事由(権利滅却事実。たとえばすでに弁済したこと)を理由にして,原告の請求が棄却されることを求めるものである。抗弁事由として主張している事実につき,その主張者が証明責任を負担している点で否認と異なる。被告はいくつかの抗弁事由がある場合には,いずれをとるかを裁判所にゆだねて,それらを主張しうる(仮定抗弁)。しかし原告がもつ債権との相殺の抗弁は,事件の蒸返しを防ぐために,それに関する判断については(他の抗弁と異なり)既判力が生ずる(民事訴訟法114条2項)ので,実務的には予備的抗弁として主張されることが多い。
なお,民法上の抗弁権については,〈抗弁権〉の項を,手形法上および小切手法上の抗弁については〈手形抗弁〉の項を参照されたい。
執筆者:納谷 廣美
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民事訴訟法上の防御方法の一種で、相手方の主張を単に否認するのではなく、相手方の主張の排除を求めて相手方の主張するのとは別個の事項を主張することをいう。ある事実を主張して相手方の主張を否定するときに、それが否認にあたるか抗弁に該当するかは、その事実についての証明責任が原告・被告のいずれにあるかによって決まる。被告が証明責任を負う事実を陳述するのが抗弁である。
抗弁には、訴訟上の抗弁(訴訟要件欠缺(けんけつ)の抗弁、証拠抗弁)と実体法上の抗弁(弁済、同時履行、相殺(そうさい)の抗弁など)がある。抗弁に対しては原告側から再抗弁(たとえば、消滅時効の抗弁に対する時効中断の再抗弁)が、さらにこれに対し被告側から再々抗弁などがなされうる。抗弁は防御方法であるから、裁判所がこれについて判断しても既判力は生じないが、相殺の抗弁の判断については既判力が生じる(民事訴訟法114条2項)。
[本間義信]
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…請求権の行使に対して,その作用を阻止しうる効力をもつ私法上の権利。たとえば,売買契約の当事者である売主,買主には,それぞれ〈同時履行の抗弁権〉(民法533条)が認められている。すなわち,売主が目的物を提供することなしに代金を請求してきた場合には,買主は目的物の引渡しがなされるまで代金支払いを拒むことができ,反対に,買主が代金の提供なしに売主に目的物の引渡しを求めてきたときは,売主は代金の支払いがなされるまで引渡しを拒むことができるのである。…
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