訴訟要件(読み)そしょうようけん

精選版 日本国語大辞典 「訴訟要件」の意味・読み・例文・類語

そしょう‐ようけん ‥エウケン【訴訟要件】

〘名〙 民事訴訟で、裁判所が判決をするために備えていなければならない前提条件。裁判所が管轄権をもっていること、当事者当事者適格を有していること、原告が訴えの利益を有していることなど。→訴訟条件

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デジタル大辞泉 「訴訟要件」の意味・読み・例文・類語

そしょう‐ようけん〔‐エウケン〕【訴訟要件】

民事訴訟法上、本案判決をするための前提要件。裁判所管轄権をもつこと、当事者が当事者能力をもつことなど。

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改訂新版 世界大百科事典 「訴訟要件」の意味・わかりやすい解説

訴訟要件 (そしょうようけん)

訴え(民事訴訟の場合)あるいは起訴(刑事訴訟の場合)が,訴訟上適法であるための要件(民事訴訟法140条,刑事訴訟法329条,337~339条)。民事訴訟では,訴訟要件というが,刑事訴訟では,訴訟条件という。

 訴訟要件は,1868年ビューローOskar Bülow(1837-1907)により案出された概念であるが,その背景には,その時代にようやく私法上の権利と,訴訟法上の訴権が理論上も,法典上も分離したという事情がある(〈請求〉の項参照)。訴訟要件は,したがって原告が裁判所に訴えることができる訴権,刑事訴訟でいえば検察官公訴権の要件なのである。ビューローは,訴訟要件を,訴訟成立の要件と考えたが,現在民事訴訟法学の通説は,それを権利の有無についての判決である本案判決の要件であるとしている。

 訴訟要件には,たとえば,同一の権利主張につきすでに判決があったこと(すなわち,いわゆる既判力による再訴の禁止)や,別に仲裁の契約があることなど,訴訟障害の不存在といわれる事由が含まれる。そのほか訴訟要件には,その裁判所がその訴えについて管轄権をもつこと(〈裁判管轄〉の項参照)や,〈訴えの利益〉(訴えの内容になっている争いが民事裁判に適するものであることなど)が存在することなど,いろいろなものがある。刑事訴訟法は,訴訟条件にあたる事由を掲げた条文を列挙したが(329条,337条),民事訴訟法は,訴えが不適法で,それが是正できない場合として一括する条文をおいた(140条)。

 民事訴訟では,訴訟要件が欠如するときは訴え却下の判決をする。この訴え却下の判決は,訴訟判決とよばれ,訴えの内容となっている権利関係については,その存否についてはまったく触れない。権利関係を判断したうえでなされる判決を,訴訟判決に対し,本案判決といい,その中には,原告の請求を承認する請求認容の判決と,それを否定する請求棄却の判決がある。却下と棄却の判決は,このように内容が異なるけれども,原告が訴えによって求める判決を拒絶されることでは同じである。この点で,原告がその求める判決を取得する権利を権利保護請求権として,それを訴権としたかつての民事訴訟の通説では,棄却と却下の区別がややあいまいとなり,いずれも権利保護請求権が認められない場合ということになる。訴訟判決の場合は,両当事者が裁判所に出廷して口頭によって互いの主張・立証をする口頭弁論は,手続のうえで心ずしも必要ではないとされている。それは訴訟要件が,当事者による資料の提出によらず,裁判所の職権で調査される事項とされているためである。しかしそれによって手続を打ち切るというきわめて重大な結果をもたらす問題である以上,口頭弁論を必要としないほど明白な場合はともかく,原則として裁判所は当事者の弁論を経て判断すべきであろう。

 刑事訴訟では,訴訟条件の違いによって,それぞれなされるべき裁判の種類を条文上区別する。それには管轄違いの判決,免訴判決,公訴棄却の判決と決定があり,これらを形式裁判といい,有罪,無罪の実体裁判と対立させる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「訴訟要件」の意味・わかりやすい解説

訴訟要件
そしょうようけん

民事訴訟法上、原告の請求の当否を判断する裁判(原告の主張する権利・義務の存否を判断する裁判で、本案判決という)を受けるために必要とされる要件をいう。原告から請求について裁判要求があっても、たとえば、裁判所がその事件につき裁判する権限をもっていなければ請求自体について判断することができないし、また、審判しても紛争の解決に役だたないときは審判してもむだになる。

 訴訟要件に何が該当するかについては、統一的な規定がないが、訴訟法の明文あるいは解釈により、その範囲がだいたい一致している。おもなものをあげれば、
(1)請求および当事者がわが国の裁判権に服すること
(2)裁判所が管轄権を有すること
(3)当事者が当事者適格を有すること
(4)訴えの利益があること
などである。

 訴訟要件は、原則として口頭弁論終結時において具備していなくてはならないが、裁判所は、その存否につき疑問があり、あるいは当事者間に争いがあるときは、職権ででも調査する。調査の結果、訴訟要件が備わっていれば、中間判決を出すか、そのまま審理を続け終局判決の理由中でその判断を示す。もし一つでも欠けていれば、補正できるものは補正命令を出し、補正できないときは、訴えを不適法として却下する(管轄違いのときは、管轄権のある裁判所へ事件を移送する)。

 刑事訴訟法上は、訴訟条件という語を用いる。

[本間義信]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「訴訟要件」の意味・わかりやすい解説

訴訟要件
そしょうようけん
Prozessvoraussetzung

民事訴訟法上,訴えが適法なものとして取り上げられ,訴訟上の請求 (→訴訟物 ) について本案判決がなされるために具備しなければならない事項。訴訟要件については,次のような分類がなされる。 (1) 積極要件と消極要件 前者は,ある事項が存在することが本案判決の要件になるものである (法律上の争訟性,管轄権,当事者能力,訴訟能力など) 。後者は,ある事項の不存在が本案判決の要件になるものである (同一事件の係属,仲裁契約の存在など) 。 (2) 職権事項と抗弁事項 前者は,当事者の主張がなくても裁判所が職権で斟酌しなければならない事項で,訴訟要件の大部分,当事者能力,訴訟能力などがこれに含まれる。後者は,当事者が主張しないかぎり問題にならない事項である (訴訟費用担保提供の申し立て,不起訴の合意など) 。また訴訟要件の審査時期について,管轄権は起訴の時に審査されるが,通常,訴訟要件は事実審の口頭弁論終結時にその具備または不存在が判断されるのが原則である。例外的に,裁判所の審判権の有無は上告審の審理終結時に判断されるとする判例がある。刑事訴訟法では訴訟条件というのが通常である。

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世界大百科事典(旧版)内の訴訟要件の言及

【訴え】より

… 訴えが提起されても,一定の要件を満たしていなければ本案判決(実体判決)に至らず,訴えは却下される(いわゆる門前払い判決)。この一定の要件を訴訟要件と呼ぶ。〈訴えの利益〉,当事者適格等がそれであるが,訴えが管轄のある裁判所に提起されることも含まれる(裁判管轄)。…

※「訴訟要件」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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