日本大百科全書(ニッポニカ) 「肝動脈化学塞栓療法」の意味・わかりやすい解説
肝動脈化学塞栓療法
かんどうみゃくかがくそくせんりょうほう
transcatheter arterial chemoembolization
肝臓内の悪性腫瘍(しゅよう)、とくに肝動脈からの供血を必要とする肝細胞がんの栄養血管を塞栓し、かつ動脈を介して抗がん剤を注入して腫瘍を壊死(えし)させる治療法。TACEと略称される。
X線透視下で、血管造影カテーテルによって肝内悪性腫瘍に栄養を送る血管を特定し、その栄養血管に塞栓物質をカテーテルを介して注入し塞栓する。肝臓の正常組織である非がん組織は肝動脈と門脈の双方から血流を得ているため、肝動脈が閉塞しても門脈から血流を得られる。一方、肝細胞がんにはほとんどの場合、肝動脈からのみ血流が供給されているため、一般には、肝動脈を塞栓すれば腫瘍への血流が遮断され、腫瘍のみが選択的に壊死する。
手技としては、大腿(だいたい)動脈穿刺(せんし)(局所麻酔下で、ふとももの付け根から大腿動脈を穿刺し、そこからカテーテルを挿入する)によりカテーテルを肝動脈へと進め、抗がん剤と油性造影剤の混合液を注入してから塞栓を行うことが多い。
TACEは、腫瘍部位の血流状態を反映して著しい腫瘍壊死効果を発揮する場合もあるが、辺縁部に腫瘍細胞が残存する可能性も否定できず、再発例も少なからず認められる。また、腫瘍による閉塞などにより門脈血流が滞っている場合は、肝動脈を塞栓すると肝臓への血流供給が全般に阻害され、肝梗塞(こうそく)が広範に生じて肝不全に陥ることもある。
なお、抗がん剤の注入などをしない、塞栓のみの手技を肝動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization:TAE)といい、腫瘍の腹腔(ふくくう)内破裂・出血などの際の止血目的などで行われる。
[渡邊清高 2019年11月20日]