抗がん剤

共同通信ニュース用語解説 「抗がん剤」の解説

抗がん剤

飲み薬と注射薬があり、投与後は血液に入って全身を巡り体内のがん細胞を攻撃、破壊する。免疫を助けることでがんを殺す機能を持つものもある。新薬が開発されるとともに、高い薬価が問題視されてきた。例えば日本発の新薬「オプジーボ」は皮膚がんなどに保険適用されているが、患者1人への投与で年間約3500万円に上ることが批判され、今年2月に半額に引き下げられた。

更新日:

出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「抗がん剤」の意味・わかりやすい解説

抗がん剤
こうがんざい
anticancer agents

生体の組織(臓器や細胞など)に発現するがん(悪性腫瘍(しゅよう))の発生・増殖・転移やそれに伴う不快な身体症状を緩和・抑制することを目的とする薬剤で、抗悪性腫瘍薬とも称される。

 近年、がん治療における薬物療法の効果は著しく向上し、さまざまな作用機序(メカニズム)を有する薬剤が開発されている。一般的に、がん治療における薬物療法で使用される薬剤はその種類によってがん細胞への作用が異なっており、「殺細胞性抗がん薬」「内分泌ホルモン)療法薬」「分子標的治療薬」「サリドマイド関連薬」などに大別されている。また、がんの種類によって作用機序が異なる多種類の薬剤を併用し、投与スケジュール等を定めた各種レジメン(治療計画)が、がん治療関連学会から公表されている。

[北村正樹 2025年1月21日]

殺細胞性抗がん薬

旧来がん治療に使用されてきた薬剤であり、細胞の増殖に伴うDNA合成やタンパク質合成、代謝、細胞分裂などを阻害することによってがん細胞を死滅させる薬剤で、化学療法薬とも称される。また、薬の作用機序から「アルキル化薬」「代謝拮抗薬」「抗腫瘍性抗生物質」「微小管阻害薬」「白金(プラチナ)製剤」「トポイソメラーゼ阻害薬」に細分化されている。

 薬の種類、投与量、投与期間、併用薬の組合せによって異なるものの、がんが発生した臓器や細胞以外の正常な組織にも作用が及ぶことから、さまざまな副作用が生じる可能性がある。おもなものとして、吐き気・嘔吐(おうと)、食欲不振などの消化器症状や脱毛、発疹などの皮膚症状、体重減少などが広く知られている。

①アルキル化薬
薬剤を構成するアルキル基細胞増殖に必要なDNAに作用(アルキル化)することでDNA複製を阻害する薬剤。

 具体的な製剤名としては、イホスファミド(注射)、カルムスチン(脳内留置用)、シクロホスファミド水和物(内服、注射)、ストレプトゾシン(注射)、ダカルバジン(注射)、チオテパ(注射)、テモゾロミド(内服、注射)、ニムスチン塩酸塩(注射)、ブスルファン(内服、注射)、プロカルバジン塩酸塩(内服)、ベンダムスチン塩酸塩(注射)、メルファラン(内服、注射)、ラニムスチン(注射)がある。

②代謝拮抗薬
DNAの構成成分(ピリミジン塩基、プリン塩基)に類似した化学構造を有し、細胞増殖に必要なDNA合成を阻害する薬剤。

 具体的な製剤名としては、アザシチジン(注射)、L-アスパラギナーゼ(注射)、アナグレリド塩酸塩水和物(内服)、エノシタビン(注射)、カペシタビン(内服)、クラドリビン(注射)、クリサンタスパーゼ(注射)、クロファラビン(注射)、ゲムシタビン塩酸塩(注射)、シタラビン(注射)、シタラビンオクホスファート水和物(内服)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合(内服)、テガフール・ウラシル配合(内服)、ドキシフルリジン(内服)、トリフルリジン・チピラシル塩酸塩(内服)、ネララビン(注射)、ヒドロキシカルバミド(内服)、フォロデシン塩酸塩(内服)、プララトレキサート(注射)、フルオロウラシル(外用、注射)、フルダラビンリン酸エステル(内服、注射)、ペグアスパルガーゼ(注射)、ペメトレキセドナトリウム水和物(注射)、ホリナートカルシウム(内服、注射)、メトトレキサート(内服、注射)、メルカプトプリン水和物(内服)、レボホリナートカルシウム(内服、注射)がある。

③抗腫瘍性抗生物質
土壌などに含まれるカビなどの微生物由来の成分が主となり、DNA分裂阻止作用、RNA合成抑制作用、DNA切断作用などによりDNA複製を阻害する薬剤。

 具体的な製剤名としては、アクチノマイシンD(注射)、ブレオマイシン(外用、注射)、マイトマイシンC(注射)、ペプロマイシン硫酸塩(注射)がある。

④微小管阻害薬
細胞分裂に重要な役割を果たしている微小管を構成するタンパク質を阻害することで、細胞分裂を停止させる薬剤。

 具体的な製剤名としては、エリブリンメシル酸塩(注射)、カバジタキセル アセトン付加物(注射)、ドセタキセル水和物(注射)、パクリタキセル(注射)、ビノレルビン酒石酸塩(注射)、ビンクリスチン硫酸塩(注射)、ビンデシン硫酸塩(注射)、ビンブラスチン硫酸塩(注射)がある。

⑤白金(プラチナ)製剤
DNAに結合することでDNA複製阻害やがん細胞死を誘導する薬剤。薬剤の構造に白金を含む注射製剤。

 具体的な製剤名としては、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン、ミリプラチン水和物がある。

⑥トポイソメラーゼ阻害薬
DNA複製に必要な酵素(トポイソメラーゼ)を阻害することで、がん細胞の細胞死を誘導する薬剤。

 具体的な製剤名としては、アクラルビシン塩酸塩(注射)、アムルビシン塩酸塩(注射)、イダルビシン塩酸塩(注射)、イリノテカン塩酸塩水和物(注射)、エトポシド(内服、注射)、エピルビシン塩酸塩(注射)、ソブゾキサン(内服)、ダウノルビシン塩酸塩(注射)、ドキソルビシン塩酸塩(注射)、ノギテカン塩酸塩(注射)、ピラルビシン(注射)、ミトキサントロン塩酸塩(注射)がある。

[北村正樹 2025年1月21日]

内分泌(ホルモン)療法薬

乳がんや前立腺がんなど特定のホルモン(女性ホルモンのエストロゲン、男性ホルモンのアンドロゲン)によって増殖するがん(ホルモン依存性)に使用され、ホルモンの合成や作用を阻害する薬剤。

 副作用としては、ホットフラッシュ(ほてり)、生殖関連臓器の症状、関節や骨・筋肉での症状が生じる可能性がある。

①アロマターゼ阻害薬
アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素(アロマターゼ)を阻害することで、閉経後の乳がんの発生や成長を抑制する内服薬。薬剤の構造から非ステロイド性とステロイド性に細分類されている。

 具体的な製剤名としては、ステロイド性のエキセメスタン、非ステロイド性のアナストロゾール、レトロゾールがある。

②抗エストロゲン薬
乳がん組織におけるエストロゲン受容体でのエストロゲン作用を阻害する薬剤。

 具体的な製剤名としては、タモキシフェンクエン酸塩(内服)、トレミフェンクエン酸塩(内服)、フルベストラント(注射)がある。

③抗アンドロゲン薬
前立腺細胞におけるアンドロゲン受容体でのアンドロゲン作用を阻害する内服薬。副作用としては、乳房腫脹や女性化乳房などの内分泌症状が生じる可能性がある。

 具体的な製剤名としては、アパルタミド、アビラテロン酢酸エステル、エンザルタミド、クロルマジノン酢酸エステル、ダロルタミド、ビカルタミド、フルタミドがある。

[北村正樹 2025年1月21日]

分子標的治療薬

がんの種類によって発現する特定の分子に特異的に作用することで、正常組織に影響を及ぼすことなく、目的とするがん細胞のみに作用する薬剤。がん細胞に特異的に作用し、正常組織を障害することが少ないことから、殺細胞性抗がん薬に比べて副作用が少ない特徴があり、汎用されている(「分子標的治療薬」の詳細に関しては別項目を参照)。分子標的治療薬は、主に小分子化合物と抗体医薬に大別されている。

①小分子化合物
有効成分の大きさが小さい化合物であり、がん細胞の増殖に関与するタンパク質を標的として細胞内に入り込み、細胞増殖を促す伝達経路を阻害する薬剤。

②抗体医薬
がん細胞の細胞表面に発現している特定の抗原に特異的に結合して、各種免疫反応(中和反応、補体依存性細胞傷害活性(CDC)、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)、抗体依存性細胞貧食活性(ADCP)、アゴニスト活性など)により抗がん作用を発揮する薬剤。抗体医薬においては、遺伝子組換え技術を活用したモノクローナル抗体が中心的薬剤として位置づけられている(「モノクローナル抗体」に関しては別項目を参照)。また、近年では各種がん免疫をつかさどるリンパ球のT細胞の抗がん活性を促進させ、がん細胞の排除を促す免疫チェックポイント阻害薬が注目されている(「免疫チェックポイント阻害薬」に関しては別項目を参照)。

[北村正樹 2025年1月21日]

サリドマイド関連薬

がんの増殖因子である血管新生の抑制作用や、免疫系の増強・調整に関与する炎症性サイトカインの抑制作用などにより抗がん作用を発揮する、サリドマイドおよびサリドマイドに類似した構造を有する内服薬。サリドマイドは当初、鎮静・睡眠薬として開発され、世界的に広く使用されていたが、1950年代に重大な薬害(催奇形性)を引き起こし、大きな社会問題となって販売が中止された経緯がある。しかしながら、近年になり多発性骨髄腫等に対する有効性が認められたことで抗がん剤として再評価され、用いられるようになった。この系統の薬剤の使用に関しては、専用の「安全管理手順」に従った厳格な薬剤管理が必要とされている。

 具体的な製剤名としては、サリドマイド、ポマリドミド、レナリドミド水和物がある。

[北村正樹 2025年1月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む