脂取り(読み)アブラトリ

デジタル大辞泉 「脂取り」の意味・読み・例文・類語

あぶら‐とり【脂取り】

顔に浮き出した脂をぬぐい取ること。また、そのための紙。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脂取り」の意味・わかりやすい解説

脂取り
あぶらとり

昔話。人食い鬼から逃れることを主題にした逃走譚の一つ。旅人が村里離れた家で親切にされる。ある部屋をのぞくと、人が逆さにつるされ、脂をとられている。驚いて逃げ出し、途中の家にかくまってもらうが、追っ手にみつかる。そこではっと目が覚めたとある。夢語りの形式に特色がある。平安後期の『打聞(うちぎき)集』(1134)や『今昔(こんじゃく)物語集』には、慈覚(じかく)大師の中国での体験として、人をつるして血を絞り、その血で纐纈(こうけち)を染める纐纈城から逃げ出す話がある。類話は中国の『冥報記(めいほうき)』(650ころ)にあり、『今昔物語集』にも和訳されている。殉死した従者が、主人の命ごいで蘇生(そせい)し、冥界(めいかい)で主人が脂をとられているところを見たことを語ったとある。当時の口語りの説話の記録である。脂取りは地獄の責め苦の一種で、仏教説話に散見する。地獄のようすは蘇生譚や夢語りのなかで説かれることも多く、この昔話も、死の世界への訪問譚から転化したものであろう。日本では現実化され、現世異人の家でのできごととしているが、明治初年、文明開化に伴い、脂をとられる、血を絞られるという風聞がまことしやかに流れたのも、昔話の伝統再生である。

[小島瓔

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