日本大百科全書(ニッポニカ) 「臨湖実験所」の意味・わかりやすい解説
臨湖実験所
りんこじっけんしょ
湖岸に設置され、陸水生物学に関する研究および実習を行う機関の一つをいう。日本のものはすべて大学の付属施設で、理学部附属として琵琶(びわ)湖畔に大津(京都大学)、諏訪(すわ)湖畔に諏訪(信州大学)、霞(かすみ)ヶ浦湖畔に潮来(いたこ)(茨城大学)の三臨湖実験所がある。
陸水生物学は、陸水域に生息する諸生物の生活と物理・化学的条件などの環境諸要素とを相互関連体としてとらえる学問分野である。したがって、生態学的方法論や手法を採用する傾向が強い。わが国の各臨湖実験所ではこのような観点で研究しており、加えて正規の授業としての臨湖実習を行っているが、他大学の実習にも便宜を与えている。また近年、人間活動の高まりとともに各湖沼の富栄養化の進行が激しく、水資源や水質の管理、自然保護などの問題が大きくなり、研究や実習に対する社会的要望が高まっている。
世界で最初の臨湖実験所は1892年、北ドイツ・ホルシュタイン地方のプリヨン湖畔に設立された。当初は陸水域のプランクトンやその他の諸生物の分類、記載を行っていた。1911年、ドイツ留学中であった京都帝国大学医科大学の生理学者石川日出鶴丸(ひでつるまる)はプリヨンを訪れ、その研究活動に刺激され、帰国後1914年(大正3)に大津臨湖実験所を創設した。それ以来この施設は、長年にわたりアジアにおける唯一の臨湖実験所であったため、外国研究者との交流のほか、国内のみでなく中国大陸でも研究するなど、この分野のアジア・センターとして活躍してきた。1965年(昭和40)に諏訪臨湖実験所、ついで67年涸沼(ひぬま)臨湖実験所(現在の潮来臨湖実験所)が設置された。
外国におけるおもな臨湖実験所としては、プリヨン以外に、ウィンダミア(イギリス)、ケロッグ(アメリカ)、ウプサラ(スウェーデン)、パランツァ(イタリア)、武漢(中国)などがある。
[三浦泰蔵]