内科学 第10版 「若年性一側上肢筋萎縮症」の解説
若年性一側上肢筋萎縮症(運動ニューロン疾患)
定義・概念
主として若年男性が罹病し,一側上肢遠位部の非進行性の筋萎縮および脱力を主徴とする疾患である.頸部前屈時に下部頸髄硬膜後壁が前方移動し頸髄を圧迫するために生じる,下部頸髄前角の慢性循環障害が本疾患の原因と考えられている.病理学的には第7,8頸髄節を中心に,前角の萎縮,神経細胞脱落を認めるが,グリアの反応は乏しい.後角,白質には変化はみられない.
臨床症状・経過
発症は10〜20歳代前半で,男性に多く,孤発性である.全体の3/4が一側性であり,1/4は両側性だがそのほとんどが一側優位である.小手筋の脱力,筋萎縮が潜行性に始まり,緩徐に進行する.筋脱力は寒冷への暴露で増悪する(寒冷麻痺).筋萎縮は前腕尺側から小手筋に及ぶ(oblique atrophy).手指の伸展時に振戦がみられる.感覚障害,膀胱直腸障害,錐体路徴候はみられない.発症当初は進行性だが,平均2~3年で停止する.
検査成績
脊髄造影では,頸部前屈時に下部頸髄硬膜後壁が前方移動し,下部頸髄は扁平化する.MRIではさらに,移動した下部頸髄硬膜の後方にT2
高信号域がみられる.筋電図で萎縮筋に神経原性変化を認め,筋生検でも神経原性変化が認められる.
治療
治療としては,頸部前屈位の持続を予防することが重要であり,場合によっては頸椎カラーを装着する.[祖父江 元]
■文献
平山恵造:若年性一側上肢筋萎縮症—その発見から治療まで. 臨床神経,33: 1235-1243, 1993.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報