改訂新版 世界大百科事典 「若者文化」の意味・わかりやすい解説
若者文化 (わかものぶんか)
youth culture
青年期にある者が,大人たちの既存の支配的文化に対抗して,自己の社会的アイデンティティを模索し,自分たちの〈世代〉としての独自性を主張すべく形成したサブカルチャーを指す。ユース・カルチャーともいう。もちろん,多くの文化変動はその時々の若年層によって担われ,また支配的文化は,子どもから大人への移行期にある若者に特有な行動様式を組み込んでいるが,これらはいずれも,若者世代が自己と他を分離,主張するためのものとして特定化したのではないため,概念としては区別される(移行儀礼,前衛,若者組など)。〈若者文化〉という言葉が登場したのは,1960年代に若者となった第2次大戦後のベビーブーム期生れの者たちが,世界的規模で生じた〈異議申立て〉現象を共通体験とすることにより〈世代〉として成立し,そこで主張されたものの考え方,生き方が〈若者文化〉の名で呼ばれるようになってからである。そこではロック・ミュージック,コミューン,ドラッグ試用を含む意識拡張,対抗文化,反戦・学生運動,さまざまな組織内改革などが,支配的文化にとって代わろうとするもうひとつの文化(オールタナティブ)として,ひとつのまとまりをもって主張された。しかし,どんな主張も次の世代にとっては陳腐となるように,また音楽業界,ファッション業界など意識産業による若者文化の商品化,ファッション化と意識操作によって,若者が〈世代〉としての主張を新たに提起することは困難な状況になりつつある。とくに日本では,1970年代半ばには若者は小グループごとに自称する〈世代〉に分断され,しかもその〈世代〉の幅は短くサイクルは速くなり,主張の内容は目まぐるしく変動している。したがって〈若者文化〉はもはやひとつの〈世代〉としての主張ではなく,先進産業社会が生み出した社会的モラトリアム期にある者たちが発達させるさまざまなサブカルチャーの単なる総称という意味に変質し,一般には,〈若者文化〉と〈若者風俗〉とが同義にとらえられつつある。
執筆者:高田 昭彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報