翻訳|generation
常識的には、一定の年齢帯に属する人々をまとめて同時代者と考える場合にこのことばを使う。父の世代とか子の世代とかいった言い方をごく普通にする場合は、同じ時代に生活する人々の総称と考えてよい。しかし、社会学などではもうすこし限定して使用することが多い。「出生時期がほぼ同じで歴史的体験を共有し、ために類似したものの見方や感じ方、それによく似た行動様式を示す一群の同時代者」と定義できる。感受性の鋭い青少年期をともにした同時代者の間では、確かに共通の話題があり、共通した時代感覚をもっているのが普通である。哲学者ディルタイは、こういった同時代者の共通した感覚が、たとえばドイツ・ロマン主義のような文化運動を推進する内面的原理であったと強調している。彼の場合に限らず、世代の概念が、社会変動を分析する際有効に働くのは、それが大きな歴史的変動と個人の生活史的体験とをつなぐ媒介概念だからである。
もっとも、この意味での1世代をどのくらいの年代幅でくくるかは、時代状況によって当然違ってくる。世代ギャップがうんぬんされる昨今、この時代幅はおそらく10年をもってしても長すぎるといった感じ方を多くの人がしているであろう。「5歳下の連中とはもう話があわない」とか、「彼は共通一次世代だ」などという場合、1世代としてくくられている年代幅は5年以下にまで短縮されている。社会学者のマンハイムは、「世代統一」の可能性をもった歴史的体験の共通性を、同じ「世代的状況」にある人々とよび、その時間幅を30年と見積もっているが、つねにそのようにいえるわけではない。近年の日本でみても、30年のうちにいくつもの異質な世代的状況が交替したと考えるべきである。もちろん、何年の幅をとろうと、世代をもってもっとも自然な歴史科学の区分軸だとする考え方は成り立つ。かりに30年説をとっていちおうの時代区分をしておいて、かえって同じ世代内部の断絶を浮かび上がらせるという手法もあるだろう。ほぼ同じ時代に生まれ、したがって同じ歴史的体験をもったと思われる人々の間に、かくも大きい断絶があるのはなにゆえか。ここから、生活地域の特異性、性による違い、所属階層の差異などが自然に浮かび上がってくる。
世代内断絶・世代間断絶の区別とともに、世代内移動・世代間移動の区別も、社会科学ではよく使う。同一人物の生涯にわたっての社会移動(とくに階層移動)を世代内移動とよび、親子2代にわたっての社会的移動を世代間移動とよんで区別するのである。日本は昔から、たいていの親が子供には教育をつけてやりたいと願った。自分の世代内移動を犠牲にしても、世代間移動に期待したのである。日本の近代化はこの形での解放性によるところ大であった。
[大村英昭]
『K・マンハイム著、鈴木広訳『世代』(1958・誠信書房)』▽『H・H・ガース、C・W・ミルズ著、古城利明・杉森創吉訳『性格と社会構造』(1970・青木書店)』
一般には,出生期をほぼ等しくする年齢層,したがってほぼ同じライフサイクルに属す〈同年齢集団cohort〉を指し,それぞれ33年余の時間幅をもつ未成年,壮年,老年の3世代が一つの〈時代century〉を構成するとされているが,このような生理学的規定だけでは十分でない。この〈同年齢集団〉に属す人々が,その人間形成期,とくに政治意識の形成期--通常それは10歳代の後半か20歳代の前半--において,同じ歴史的出来事や政治文化を体験し,希望や失望を共感するなかで,世界観やライフスタイルの土台となるような〈準拠枠組みframe of reference〉を共有するにいたるとき,〈純粋に質的にのみ体験される内面的時間〉としての世代が生まれるのである。
このような意味での世代が歴史に登場したのは,18世紀中葉以降の急激な社会変動の進展によって,統一的な価値観や規範が解体し,親の代から子の代への文化の継承や社会化が動揺しはじめた時期においてである。とくに外面的道徳や権威主義的因襲を退けて内面的道徳や心情的本来性を生きることを決断した〈多感主義の世代〉と,フランス革命を自己の内的運命とかかわらせて受け取った〈ロマン主義の世代〉が,歴史形成の動因としての青年世代というテーマを登場させることになった。そして,このテーマが劇的な形で演じられたのが,1960年代後半から70年代前半にかけて,先進的産業社会で噴出した青年反逆現象のなかにおいてだった。かつての多感主義とロマン主義に加えて,ポピュリズム的心情をたぎらせる60年代の青年は,〈テクノクラート的合理主義〉を拒否して,アイデンティティ,自立性,共同性,意味の追求,自己表出,参加民主主義などを合言葉にした〈本来性の運動authentic movement〉に自己投企した。それは単なる政治制度の変革というよりも,より根底的な価値観やライフスタイルの変革を志向するものであっただけに,既存秩序の側の大規模な社会統制の発動を誘発し,70年代中葉には社会の前面から姿を消さざるをえなくなった。しかし,この〈対抗文化の世代〉が共有する固有の〈準拠枠組み〉は,法と秩序をスローガンにした抑圧の時代にあっても持続しつづけ,エコロジー,反差別,反核平和,地域主義等の運動のなかで自己主張を続けている。
ところで,世代は他の対立する世代との間で葛藤を引き起こす(世代断絶)ばかりでなく,同年齢集団内部でも葛藤と不統一を引き起こすものである。たとえば,60年代後半の青年の場合,その内部には〈体制の全面否定〉へと志向するリベラル・ラディカルな中産階級の出身者,〈支配的文化への順応〉を心がける伝統的な労働者階級や下層階級の出身者,〈体制内での改革〉を要求する少数民族や社会的弱者が存在しており,そこには連帯や統一よりも分裂や葛藤が存在していたことも事実である。したがって,世代現象の正しい理解のためには,階級ラインと世代ラインを結合した観点が必要である。なお,今後に予想される高齢化社会では,これまでほとんど無視されてきている老年世代のはらむ問題が前面化することも疑いえない。
執筆者:高橋 徹
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…期間を1年に限らず,5年間としたり,年齢5歳階級別人口の一つの級に属する人口を,一つのコーホートと考えたり(年齢コーホート),また出生集団に限らず,特定期間に結婚した夫婦集団を結婚コーホートと考えることもある。コーホートは,今まで一般に使用されてきた世代generationにあたるものであるが,世代概念は社会学の広い意義をもっているため,人口学上の特有のものとして区別するためにコーホートの概念が使用されるに至った。ある年次に生まれた出生女児集団が一生涯にどのくらいの子どもを産んだか,またある年次の出生の人口がどのような死亡率で死亡していったかを計算する場合,これを〈実際コーホートactual cohort〉の出生力とか死亡率(あるいは生残率)とよばれる。…
…期間を1年に限らず,5年間としたり,年齢5歳階級別人口の一つの級に属する人口を,一つのコーホートと考えたり(年齢コーホート),また出生集団に限らず,特定期間に結婚した夫婦集団を結婚コーホートと考えることもある。コーホートは,今まで一般に使用されてきた世代generationにあたるものであるが,世代概念は社会学の広い意義をもっているため,人口学上の特有のものとして区別するためにコーホートの概念が使用されるに至った。ある年次に生まれた出生女児集団が一生涯にどのくらいの子どもを産んだか,またある年次の出生の人口がどのような死亡率で死亡していったかを計算する場合,これを〈実際コーホートactual cohort〉の出生力とか死亡率(あるいは生残率)とよばれる。…
※「世代」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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