日本大百科全書(ニッポニカ) 「薬物伝送システム」の意味・わかりやすい解説
薬物伝送システム
やくぶつでんそうしすてむ
drug delivery system
薬の有効性や安全性を高めるため、剤型や原理をくふうし、病気の箇所に薬を集中させる手法。ドラッグデリバリーシステム、英語表記の頭文字をとってDDSともいう。通常の飲み薬は100分の1から1000分の1以下しか目的の箇所に届かず、その分、薬が大量に必要となるため副作用も強まり、種類も増える。古くからの腸溶錠(胃で溶けずに腸で溶ける錠剤)も薬物伝送システム薬の一種で、近年は種類も豊富になった。プロドラッグは化学物質で修飾して作用をカムフラージュしておき、肝臓や皮膚など目的の臓器で代謝されて初めて薬効を現すもので、抗癌(こうがん)剤や抗炎症剤などがある。脂肪が炎症部に集まることを利用して薬の外側を脂肪でくるんだリポ製剤は、消炎鎮痛剤や血管拡張剤に用いられている。心臓薬ニトログリセリンを皮膚から直接、しかも徐々に体内に送り込む貼(は)り薬は日本でも市販されているが、欧米ではこのタイプの乗り物酔い薬やホルモン剤もある。免疫反応を利用し、特定の癌細胞などにしか反応しないモノクローナル抗体は最初診断薬から実用化されたものであるが、現在では治療分野でも、抗癌剤と結び付けて癌病巣を集中的にたたく「ミサイル療法」として期待が大きい。
[田辺 功]