日本大百科全書(ニッポニカ) 「解放されたエルサレム」の意味・わかりやすい解説
解放されたエルサレム
かいほうされたえるされむ
Gerusalemme liberata
イタリアの詩人T・タッソの長編叙事詩。11音節八行韻詩の形式をとり、全20歌1917連からなる。反動宗教改革、レパントの海戦と続く時代的背景のなかで、第1回十字軍を素材とし、十数年の構想を経て、1575年に完成。ウェルギリウスからアリオストに至る英雄叙事詩および騎士道文学の伝統を踏まえて構築されたこの物語は、エルサレム解放までの十字軍の史実と幻想的な虚構部分とが錯綜(さくそう)しながら展開していくが、その基調をなすものは英雄の悲劇的な死と宿命的な愛の不成立であり、そこに、やがて狂気に落ちていくタッソ独自の暗鬱(あんうつ)とした詩的世界の本質がうかがえる。
[鷲平京子]