イタリアの詩人タッソの代表的長編叙事詩。11音節8行韻詩の形式をとり,全20歌1917連から成る。反宗教改革,レパントの海戦でのキリスト教国側の勝利を時代的背景に,第1回十字軍を素材とし,十数年の構想を経て,1575年に完成した。物語はウェルギリウスからアリオストに至る英雄叙事詩および騎士道文学の伝統をふまえて構築されており,エルサレム解放までの戦闘を中心とした十字軍の史実と,伝説を交えた幻想的な虚構性とが錯綜しながら展開されてゆくが,その基調をなすものは英雄の悲劇的な死であり,宿命的な愛の不成立であって,そこに,やがて狂気に落ちていくタッソ独自の,暗鬱な詩的世界の本質がうかがえる。なお,タッソはその後この作品の改稿を重ね,晩年の1593年に,《征服されたエルサレム》のタイトルで再発表している。
執筆者:鷲平 京子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イタリアの詩人T・タッソの長編叙事詩。11音節八行韻詩の形式をとり、全20歌1917連からなる。反動宗教改革、レパントの海戦と続く時代的背景のなかで、第1回十字軍を素材とし、十数年の構想を経て、1575年に完成。ウェルギリウスからアリオストに至る英雄叙事詩および騎士道文学の伝統を踏まえて構築されたこの物語は、エルサレム解放までの十字軍の史実と幻想的な虚構部分とが錯綜(さくそう)しながら展開していくが、その基調をなすものは英雄の悲劇的な死と宿命的な愛の不成立であり、そこに、やがて狂気に落ちていくタッソ独自の暗鬱(あんうつ)とした詩的世界の本質がうかがえる。
[鷲平京子]
…すでにペトラルカはラテン語による叙事詩《アフリカ》(1338ごろ執筆開始)によってローマで桂冠詩人の栄誉を受け,ボッカッチョはウェルギリウスとスタティウスに範を取って叙事詩《テセイダ》(1340‐41)を著したが,ルネサンス期に入ってまずL.プルチの《モルガンテ》(1483)が発表された。この叙事詩は武勲詩のパロディの一種であり,こうして始められた古典と中世騎士道物語の混交は,M.M.ボイアルドの《恋するオルランド》から,ルネサンス期最大の叙事詩L.アリオストの《狂えるオルランド》(決定版1532)を経て,バロック期最大の叙事詩T.タッソの《解放されたエルサレム》(1565‐75)に受け継がれ,最後にG.マリーノの《アドーネ》(1590‐1616)のあまりにも音楽的な語法の作品に達した。 ここで,15世紀から17世紀にかけてイタリア文学の背骨を成した長編叙事詩の作者たちが,フィレンツェやフェラーラなど,各地の専制君主の宮廷詩人であった事実を思い返しておく必要があるだろう。…
…父ベルナルドも叙事詩《アマディージ》などで世に知られた詩人であり,タッソはこの父に伴われて幼少時からイタリア各地の宮廷を転々とした。15歳の年にはベネチアで《解放されたエルサレム》の最初の草案に着手。16歳になると父親の意志によりパドバで法律を学び始めるが,他方で文学者たちとの交流を重ね,古今の文学作品を耽読(たんどく)しながら,着実に文学的熟成を遂げてゆき,数々の恋愛詩および騎士物語詩《リナルド》を執筆。…
※「解放されたエルサレム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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