谷戸(読み)やと

改訂新版 世界大百科事典 「谷戸」の意味・わかりやすい解説

谷戸 (やと)

谷間湿地のこと。とくに武蔵相模で多く使われている語。同様の語として鎌倉下総での〈やつ(谷,谷津)〉,東北地方や北海道でひじょうに多く使われている〈やち(谷地)〉がある。《常陸国風土記》には,谷戸を支配している蛇身の〈夜刀(やと)神〉が現れて,開発を妨害した話が収められている。古代以来,このような水湿の地は水田適地とされ,好個の開発対象となった。谷戸は湧水を用水とすることができ,小規模な開墾が可能であったから,とくに中世には,谷戸のような谷の開田が盛んに行われ,中世の代表的な耕地景観をつくりだした。そのような谷間の田を関東地方では〈谷戸田〉〈谷地田(やちだ)〉,近畿地方では〈棚田〉〈山田〉,中国地方では〈迫田(さこだ)〉などと呼んでいる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の谷戸の言及

【大泉[村]】より

…村名は村内の大湧水にちなむ。中心地は谷戸で,第2次世界大戦後,井出原に約150戸の農家が入植し,開拓を進めた。村域の大部分を山林が占めるが,八ヶ岳に発する河川と数多くの湧水を利用して,稲作が行われてきた。…

【農業】より

…《地方(じかた)凡例録》には撒播の蒔田(まきた)と,株播の摘田(つみた)の2種をあげるが,両者とも田植農法では成熟しがたい悪田での方法であり,〈関東筋山寄等悪地〉で行われるといっている。ここにいう山寄は必ずしも極端な山村ではなく,東海道筋の神奈川宿,保土ヶ谷宿周辺の谷戸(やと)田でも幕末期まで直播稲作が行われている。六角橋村は村内に神奈川宿用の溜池があるが,この水は農業には使われず,村内8町8反の田は全部直播田である。…

※「谷戸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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