山の斜面、谷間の傾斜地に階段状につくられた水田。雨をためる小さなダム、地滑り防止、生態系維持といった機能もある。農林水産省は2005年を最後に棚田の面積を調べていないが、耕作放棄が進んでいるとされる。保全を目指し、都市住民らが会費を払って農作業に参加、コメを受け取る棚田オーナー制度が各地で実施されている。19年には議員立法で棚田地域振興法が成立。棚田を「貴重な国民的財産」と位置付け、都道府県が振興計画を作る仕組みを設けた。
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山腹などの急傾斜地につくられた棚状の田のこと。山間地で急峻(きゅうしゅん)な土地まで開田している場合には、田は幅の狭い帯状になり、その上・下段の田との間はかなり高い垂直の壁がつくられ、これらは石などで保守されていて、その形が棚のようにみえる。棚田は等高線に沿ってつくられるので、いわゆるテラス栽培の一種である。また、山腹などに小さい棚田がたくさんつくられている情景から千枚田ともよばれる。棚田の耕作には農具、肥料、資材の運搬に多くの労力を要し、機械化も困難でおもに手労働によらなければならない。用水も天水の田ごと灌漑(かんがい)や小規模の湧水(わきみず)や溜池(ためいけ)に頼るしかない。高冷地の渓谷型棚田では、春には雪融(ど)けが遅くて水温が上がらず、秋には早い時期に霜が降り稲作に適する高温期間が短い。また棚田は火山灰性の土で砂礫(されき)も多く、作土の浅い漏水田が多い。ここに冷水灌漑が行われているので、盛夏の7、8月に異常低温がくると冷害を受けやすい。雨量の少ない年には干魃(かんばつ)の被害も出やすい。このように棚田は生育が不安定で生産性が低く、経済上不利な条件にある。
棚田は日本では中部地方の標高500メートル以上の高地にとくに多く、また平坦(へいたん)地の少ない島嶼(とうしょ)の海岸などにもみられる。棚田は日本のみならずフィリピン、台湾など東南アジアの各地にも多くみられ、中国の雲南省の高地にも大規模に発達している。
[星川清親]
谷間などにつくられた階段状の水田。1枚の田の面積は小さく,例えば〈一段四瀬町〉と記されていれば,棚田1反が4枚の田からなっていることを示している。《高野山文書》に〈一反坪ハ上ミニ池アリ,池ノ水ヲ引ク也,根本ハ糯田ト名ク,今ハ山田ニテ棚ニ似タル故ニ,タナ田ト云〉とあるように,〈山田〉と同じで,上部の小さな谷池を用水源とした,棚のように段々になっている水田であった。棚田は,用水の水温も低く,良好な水田ではない。しかし,河川のはんらんの影響などを受けることなく,低いなりに安定した収穫を期待できる。古代以来,各時代で棚田型の開田は行われたが,小規模な労働力で開墾できるため,とくに中世以降に活発な棚田型開発が進行した。〈迫田〉〈沢田〉〈谷田〉〈谷戸田〉〈山田〉などと呼ばれる田地がそれである。そして,棚田は山田とともに,鎌倉時代末期ごろから,山城,大和,近江,和泉,紀伊などの畿内近国の史料上に急に多く見られるようになる。おそらく中世小農民の成長を反映しているのであろう。棚田型開田は近世にも引き継がれた。能登などのいわゆる〈千枚田〉は,棚田の典型で,小農民たちの営々たる努力がつくりだしたみごとな歴史的景観である。
執筆者:黒田 日出男
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…傾斜地を普通作物の栽培に利用する場合の耕作方式の一つで,農地保全を目的として,等高線に沿った階段で耕地を区切り,段畑を設けるものである。この方式を適用した水田は棚田と呼ばれる。各段畑はゆるやかな傾斜をもつものが斜面の利用上有利で工事も容易であるが,水田として利用する場合には水平でなければならない。…
…孤立しやすく開発から取り残されがちな場所でもある。丘陵地から成る半島は,こうした性格が顕著であり,古くから棚田(房総丘陵など)が開けたり,林業地(能登丘陵のアテ林)などとなってきた。薪炭林などとしての用途のなくなった丘陵斜面は,最近ゴルフ場や牧草地,レジャー用地,大学の敷地など広い面積の必要な土地利用に開発されつつある。…
…其処に小水ありて田有をさこ田と云ふ〉とある。迫田は,谷田,棚田と同様に,1枚1枚の耕地は零細であり,労働力の投下に比して収穫量はけっして多いものではなかった。しかし,小さな谷々の湧水によって用水が確保でき,河川のはんらんなどの影響をうけることが少ないので,古代,中世では安定的な水田であった。…
…谷戸は湧水を用水とすることができ,小規模な開墾が可能であったから,とくに中世には,谷戸のような谷の開田が盛んに行われ,中世の代表的な耕地景観をつくりだした。そのような谷間の田を関東地方では〈谷戸田〉〈谷地田(やちだ)〉,近畿地方では〈棚田〉〈山田〉,中国地方では〈迫田(さこだ)〉などと呼んでいる。【黒田 日出男】。…
※「棚田」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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