デジタル大辞泉 「豈」の意味・読み・例文・類語

あに【×豈】

[副]
あとに推量を表す語を伴って、反語表現を作る。どうして…か。
「価なき宝といふとも一坏ひとつきの濁れる酒に―まさめやも」〈・三四五〉
あとに打消しの語を伴って、強い否定の気持ちを表す。決して…ない。
夏蚕なつむしひむしの衣二重着て隠み宿やだりは―良くもあらず」〈仁徳紀・歌謡

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「豈」の意味・読み・例文・類語

あに【豈】

  1. 〘 副詞 〙
  2. 反語表現に用いる。どうして。何として。
    1. (イ) 推量の助動詞「む」に助詞「や」を添えた形をあとに伴う場合。まれに「や」のつかない例もある。
      1. [初出の実例]「価無き宝といふとも一坏(ひとつき)の濁れる酒に豈(あに)まさめやも」(出典:万葉集(8C後)三・三四五)
      2. 「あに閻羅獄卒の責をまぬかれんや」(出典:平家物語(13C前)五)
    2. (ロ) 打消の助動詞「ず」に助詞「や」を添えた形をあとに伴う場合。
      1. [初出の実例]「豈空といふ論も此と過亦斉(ひとし)きにあらずや」(出典:大乗広百論釈論承和八年点(841))
  3. ( あとに打消表現を伴って ) 決して。
    1. [初出の実例]「夏蚕(なつむし)の 蝱(ひむし)の衣 二重著て隠(かく)み宿(やだ)りは 阿珥(アニ)良くもあらず」(出典:日本書紀(720)仁徳二二年正月・歌謡)

豈の語誌

( 1 )上代語では「なに」の異形と見られ、「あに」の呼応は反語にする例も見えるが、打消と呼応し平叙する例が多い。
( 2 )中古以降は、漢文訓読関係の文脈にのみ固定して用いられ、和文脈には用いられなくなる。「豈」字を訓で読み、反語表現の用法が圧倒的に多い。

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普及版 字通 「豈」の読み・字形・画数・意味


10画

[字音] ガイ・キ
[字訓] かちどき・あに

[説文解字]

[字形] 象形
軍鼓の形である豆の上に、羽飾りなどを飾る形。苗族の楽器である銅鼓を示す南の古い字形にも、上端両旁に羽飾りを加えた形のものがある。〔説文〕五上に「師をすときの振の樂なり」とあり、凱の初文とみてよい。

[訓義]
1. かちどき。
2. と通じ、たのしむ。
3. 覬と通じ、ねがう。
4. 幾・其と通じ、ねがう、あに。また発語。

[古辞書の訓]
〔字鏡集〕豈 ヤスシ・ネガフ・モトモ・アニ・イカン・ヤマノフモト

[部首]
〔説文〕五上の二字を属し、に「事を訖(をは)るの樂なり」とする。〔玉〕に豈を「安なり。焉なり」とし、またの或る体として凱を加えている。

[声系]
〔説文〕に豈声として剴・皚・覬・磑・・鎧など十五字を収める。は豈の声義を承け、磑は擬声語・鎧は磑の形態をとる字であろう。覬は「幾(ねが)う」、(幾)と声が近い。

[語系]
豈khii、覬・kiiは声近く、通用の字。

[熟語]
豈楽・豈豈弟・豈楽

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