日本大百科全書(ニッポニカ) 「貸し衣装」の意味・わかりやすい解説
貸し衣装
かしいしょう
個人や企業、団体などに貸し出す衣装をいう。常時所持している必要がないため、あるいは衣生活の変化に対応するための浪費を省くことなどを目的に借り出される。企業の場合では演芸会、舞踊、宴会、運動会、花見などの催し物の際に、また個人の場合では婚礼や葬儀などの祝儀・不祝儀のほか大学の卒業式のおりなどに利用される。貸出し期間は、使用当日を含めておよそ3日間というのが一般的である。
明治・大正以降、借用料をとって業とするものを一般に貸し衣装屋というが、借用料、つまり損料を支払うことから、江戸時代にはこれを損料屋と称していた。損料を支払って衣装を借りることは、山科言継(やましなのときつぐ)や言経(ときつね)の日記に散見している。応仁(おうにん)の乱(15世紀)後荒廃した都の中にあって、公家(くげ)たちの間では宮中の儀式に列席するにも衣服をもたないために、また体面を重んじる意味から他人のものを借用したり、くじ引きで儀式に連なるために損料を支払って装束を借りてまにあわせた。また江戸時代には、農民の結婚や長屋住まいの町人の祝儀などのほか、花見衣装なども損料屋に依存していたことが小説類に記されている。
なお、貸し衣装の場合の晴れ着の紋は、現在その家の紋となんら関係のないものですませていることが多いが、第二次世界大戦前は、貸し衣装ですませることを恥として、自分の家の紋を張り付け紋にして着用した。
[遠藤 武]