日本大百科全書(ニッポニカ) 「超沈殿」の意味・わかりやすい解説
超沈殿
ちょうちんでん
superprecipitation
筋肉のアクトミオシンに低イオン強度下で、ATP(アデノシン三リン酸)を加えると収縮して生じる特異な沈殿をいう。アクトミオシンは生理的なイオン強度(塩化カリウム濃度0.03~0.12モル)下で水分の多い沈殿を形成するが、これにATPを加えると著しく収縮して粘性を増し、小さく固まってしまう。この現象を1942年ハンガリー出身の生化学者セント・ジェルジー(1937年ノーベル医学生理学賞)が発見し、筋収縮の試験管モデルと考え、超沈殿と名づけた。
アクトミオシンはFアクチン(筋肉タンパク質の一つであるGアクチンが重合したもの)にミオシンが多数重合した矢尻(やじり)形の構造をもつが、ATPによって解離し、いったん透明化する。次にミオシンどうしが重合したフィラメントができ、これにFアクチンが結合して巨大な会合体へと成長し、水を排除しながら小さく縮んで超沈殿となる。これに伴って、ミオシンのATPアーゼ活性が上昇する。超沈殿にはカルシウム濃度が1マイクロモル程度必要で、キレート剤でカルシウムを除くと超沈殿にならず、逆に透明化する。このカルシウム感受性はトロポニンとトロポミオシンの複合体によるものである。トロポニンは、1965年(昭和40)江橋節郎(せつろう)(1922―2006)・文子夫妻が発見したもので、分子量約7万5000、三つのサブユニットT(分子量約4万)、I(同約2万4000)、C(同約1万8000)からなる。なお、アクチンは、1942年ハンガリーのストラウブBrunó Ferenc Straub(1914―1996)が発見している。
[野村晃司]