転移性肝がん(読み)てんいせいかんがん(その他表記)Metastatic hepatic cancer

六訂版 家庭医学大全科 「転移性肝がん」の解説

転移性肝がん
てんいせいかんがん
Metastatic hepatic cancer
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

どんな病気か

 肝臓以外の場所にできた悪性腫瘍がん)が血液の流れに乗って肝臓に転移してきたものが転移性肝がんで、原発性(げんぱつせい)肝がん(肝細胞(かんさいぼう)がん胆管細胞(たんかんさいぼう)がん)とは区別する必要があります。

 肝臓に転移してくるがんのうち、日本で多いものは、大腸がん胃がん膵臓(すいぞう)がん、子宮がん、肺がん乳がん胆嚢(たんのう)がんなどです。もともとあった臓器のがん(原発巣)が外科手術などで十分に除去されている場合と、残っている場合とがありますが、後者では治療が難しく、長期生存は難しい傾向にあります。

原因は何か

 原発巣のがんの発生原因は、それぞれの臓器の性質によります。発生した悪性腫瘍が肝臓に転移してくるのは、免疫能が低下することに伴ったり、腫瘍の悪性度が増す(性質が悪くなる)ことによったりしますが、十分にはわかっていません。

症状の現れ方

 腹部膨満感(ぼうまんかん)腹痛などの自覚症状のほか、定期的に通院をしている人では、血液検査で腫瘍マーカーの上昇や、肝機能検査値の異常が先に見つかるほうが多いようです。

 また、定期的な診察を受けている人では、自覚症状が出る前に、超音波検査やCT検査などの画像診断で、肝臓内に無症状のがん結節が発見されることが一般的です。

検査と診断

 腫瘍マーカーと画像診断で病気の把握をします。

 もともとのがんがどのような腫瘍マーカーを産生するかにより、該当する腫瘍マーカーが高値となっているかどうかを調べます。腫瘍があるか、どのような性質のものか、肝臓内の広がりの程度がどうかなどの検査は、超音波検査やCTMRIなどで行います。

 外科切除や持続肝動脈注射など特殊な治療を行う時には、血管造影検査も必要になります。肝臓に転移したがんが他の臓器にも転移していないかどうかを調べるために、骨シンチグラムや腫瘍シンチグラム(ガリウムシンチグラム)、PET検査などを行うこともあります。

治療の方法

 大腸がんなどで肝臓への転移が単発(1個だけ)であれば外科切除することがありますが、手術できないことのほうが一般的です。

 腫瘍の種類と状態により、抗がん薬を肝臓の転移がんに高濃度に注入するために、肝動脈にカテーテル(細い管)を留置し、そこから持続肝動脈動注療法(じぞくかんどうみゃくどうちゅうりょうほう)を行うことがしばしば有効です。最近では2種類以上の薬を組み合わせて行う全身化学療法(静脈注射または内服で抗がん薬を使う)を行うこともあります。

 乳がんなど特殊ながんではホルモン療法が有効で、長期の内服治療も併用します。

病気に気づいたらどうする

 がんの治療を受けたことがあれば、その後も定期的にその専門医の診察を受けることが基本です。転移性肝がんの自覚症状は少ないのですが、腹部の張り感・痛み、黄疸(おうだん)などに気づいたら、ただちに、もともとのがんの担当医を受診してください。

池田 健次

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「転移性肝がん」の解説

てんいせいかんがん【転移性肝がん Metastatic Liver Cancer】

[どんな病気か]
 ほかの臓器・組織のがんが転移してきたものが転移性肝がんで、肝がんの4分の3は、じつはこの転移性肝がんです。
 がんの転移は、動脈系とリンパ系がおもなルートです。ところが、肝臓には、このほかに門脈(もんみゃく)(小腸(しょうちょう)が吸収した栄養素を肝臓へ運ぶ血液の流れる血管)という血管系が存在し、ここを介して胃がん、膵(すい)がんなどの消化器がんが転移してくるため、ほかの臓器に比べると、がんが転移してくる頻度が高いのです。
 とくに肝臓に転移しやすいのは、大腸(だいちょう)がん、胃がん、胆道(たんどう)(胆嚢(たんのう)・胆管(たんかん))がん、膵がん、乳がんなどです。
 がん病巣は、多発するケースがほとんどですが、単発のこともあります。
[症状]
 がん病巣が小さく、少数のときには、無症状のことが多いのですが、全身のだるさ、食欲不振、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)(ふくれ感)などが現われることがあります。進行すると、黄疸(おうだん)、腹水(ふくすい)、体重減少などが現われます。
 超音波検査、CT、MRI、血管造影などの画像診断で診断がつきます。
[治療]
 転移性肝がんの多くは、肝臓のはたらきが正常で、慢性肝炎(まんせいかんえん)、肝硬変(かんこうへん)をともなっていません。
 このため、肝切除術(かんせつじょじゅつ)が適応となることが少なくありません。
 肝切除術が適応となるのは、①もとのがんを完全に切除できるか、すでに切除されている、②肝臓以外に転移がない、③肝臓のがん病巣が一定の範囲内に集中している、④手術に耐えられる肝臓のはたらきと体力が残っている、などの条件に適合するケースです。
 このような条件を満たすケースは大腸がんに多く、肝切除を行なった場合の5年生存率は、30~40%ですが、年々、向上してきています。
 肝切除術を行なえない場合は、経(けい)カテーテル肝動脈塞栓術(かんどうみゃくそくせんじゅつ)、肝動脈内抗がん剤注入療法、マイクロウェーブ療法(肝細胞がんの「治療」のPMCT(マイクロウェーブ療法)が行なわれますが、肝切除術に比べると5年生存率は低くなります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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