主君にそむき裏切りの行為をはたらくこと。内応・内通と同義で,自軍の機密を敵に告げたり,敵を陣営内に導くこともこれに含まれる。古く《将門記》で乗馬の郎等にとりたてることを条件に平将門陣営の石井営所(いわいのえいしよ)に手引きをした丈部子春丸の例はこれにあたる。もっとも〈返忠〉の語自体,主君への忠義という観念が生まれる後世のものではあるが,古来合戦にさいしての裏切りは常であった。ほかにも〈すはや城中に返忠の者出来て,火を懸けたる〉とある《太平記》の描写に見られるような,放火による攪乱行為も含めて,戦場における敵軍との呼応は返り忠のさいたるものであった。その後〈返忠〉の語は広く戦国大名の分国法にも散見し,〈山賊・海賊・夜討・強盗ならびに道路追剝等,自今以後,堅く御成敗を加へらるべき条,たとひ盗人中たりといへども,返忠を致さば,その咎を免れ……〉(《六角氏式目》)とあるごとく,犯罪人でも密告などを含めて〈返忠〉をすればその咎(とが)は許されるという風潮も一般化するようになる。
執筆者:関 幸彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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