山賊(読み)さんぞく

精選版 日本国語大辞典 「山賊」の意味・読み・例文・類語

さん‐ぞく【山賊】

〘名〙 山の中に根拠地をかまえ、旅人民家などをおそって財物を奪う盗人山盗人(やまぬすびと)
※続日本紀‐宝亀一一年(780)二月丁酉「海道漸遠。来犯無便。山賊居近。伺隙来犯」
平家(13C前)二「堂衆に語らふ悪党と云は諸国の竊盗、強盗、山賊、海賊等也」 〔宋書謝霊運

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デジタル大辞泉 「山賊」の意味・読み・例文・類語

さん‐ぞく【山賊】

山の中を本拠地にして通行人を襲う盗賊
[類語]海賊凶漢凶賊奸賊賊徒賊子逆賊謀反人悪人悪者悪漢悪党悪玉悪女毒婦食わせ物詐欺師山師ペテン師いかさま師あくわる凶徒凶手人非人人でなし奸物曲者暴漢暴れ者暴れん坊暴徒荒くれ者ごろつきならず者地回りやくざ暴力団無頼漢無法者与太者ごろちんぴらあぶれ者

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改訂新版 世界大百科事典 「山賊」の意味・わかりやすい解説

山賊 (さんぞく)

山中において旅人などの通行人から財物を奪取する強盗,またその集団。山立(やまだち),山落(やまおとし)ともいう。日本の中世には《御成敗式目》のいわゆる〈大犯(だいぼん)三箇条〉の付則条項に〈夜討,強盗,山賊,海賊〉があげられているように,山賊は公権力が禁圧の対象とした最も重い犯罪の一つとされていた。実際にも地頭御家人が山賊を追捕して,恩賞地を給与されていることも知られる。いっぽう,中世前期の説話集などからは,山賊自身はその行為に対するそれほどの罪悪感がなく,またそれを重犯罪と考えない社会意識がなお存在したことが読みとれる。この時代には昼強盗と夜強盗が異なる犯罪とされていたように,強盗を行う場である山,海,市町,路次などに,その行為をささえる歴史的由来があり,たんなる強盗ではないという観念がこのような山賊に対する社会意識をたもたせていたのである。

 〈山立〉という語が,山賊という意味と,狩人,またぎなど山を生活の場とする山民を指す語として存在したことからも知られるように,山賊は俗世間側が賊としたのであり,本来は山民の慣習に由来する。山という俗世間とは次元を異にする世界に入りこんだ俗界の人々から,山の神に対する捧げもの,通行税をとるのは当然とする論理が山民側に存在したのである。このことは,〈山落〉(落は奪取の意)という行為が,中世前期なお正当な行為として行為者に主張されていることからも明らかであり,やがてこの山落という語が山賊と同義語となっていく過程に,俗世界の側の論理の優越をみることが可能である。この山は,中世の逃散百姓が領主権力から逃れるために〈山に入る〉と表現された不入地であり,山の神が支配する聖なる領域であった。山と俗界の境界は,山神の祠などで厳密に区分されていたが,山立と狩人とをなお近しい関係ととらえている《塵芥集》では,この境界を路次より3里と法定している。
義賊 →盗賊
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「山賊」の意味・わかりやすい解説

山賊
さんぞく

山間に本拠地を構えて集団生活をし,平野部の農村や街道を往来する人間や物資を襲う盗賊。ヨーロッパ,アメリカ,中国には事例が多い。日本では古くから政治支配の及ばない地域が少いので,固定的に本拠地を構える盗賊集団は成立せず,単なる追いはぎのことを山賊といった。映画や小説で山賊のように扱われる野武士は,領主化を目指したり,戦国大名に動員されて武力行使した地侍 (じざむらい) の集団で,必ずしも職業的な盗賊ではなかった。

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普及版 字通 「山賊」の読み・字形・画数・意味

【山賊】さんぞく

山中の賊。

字通「山」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の山賊の言及

【マキ】より

…【佐藤 久】
[レジスタンスにおけるマキ]
 18世紀中葉,コルシカがフランスの統治下に入って以後,その支配や導入される新しい法秩序になじまず,それと衝突したり,また,旧来の社会的紐帯が揺らぐなかで,かつての共同体の掟の行使が私的な争闘に転化して犯罪者として追われる人びとが増加した。こうした人びとがしばしば島内のマキに隠れすみ,〈山賊〉化し,19世紀のロマン主義的風潮のなかで,ときに,義賊,英雄のイメージで描かれた。メリメの作品《コロンバ》(1840)や《マテオ・ファルコーネ》(1829)はとくに有名である。…

※「山賊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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