改訂新版 世界大百科事典 「道情」の意味・わかりやすい解説
道情 (どうじょう)
dào qíng
中国の歌曲の一種。もとは道教の道観で道士によってうたわれた賛歌で,幽玄な道の世界に遊ぶ法悦をうたう。それの起源は,六朝・唐代に道士や一般詩人も作詞し詠唱した〈歩虚詞〉という道歌だろうという。これの唐代における初見は,敦煌写本(スタイン5648号)に見いだされる〈道情詩〉であり,宋・元代になると民間の歌謡にもなって,長短さまざまな歌詞と節回しでうたわれ,芝居では登場人物の道士のみならず僧侶もこれをうたうことがあり,歌の内容にも俗世の愚かさや醜さへの風刺が加わるようになった。うたうときは,竹筒の両端に皮を張った漁鼓という鼓と,簡子という2枚の竹片(カスタネット)を打つ。詞や散曲の調べに乗せてうたうことも多く,この流行は次の明・清の時代でも変わりはなかった。好事家や文人による新しい歌詞も作られた(例えば清の徐大椿の《洄渓道情》)。青木正児は1922年(大正11)に揚州に遊んでこれを聞き,深く感動したという。
執筆者:入矢 義高
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報