朝日日本歴史人物事典 「遠山品右衛門」の解説
遠山品右衛門
生年:嘉永4.5.18(1851.6.17)
明治時代の日本アルプス黎明期の山人。信濃国(長野県)大町生まれ。戸籍名は里吉だが,自ら品右衛門と名乗る。20歳ごろから山へ入りびたり,「黒部の主」といわれた。正直で温厚,親切な人柄で「シナエム」と村人に慕われた。黒四ダムの湖底に水没し,いまはない黒部川の平の小屋を拠点に夏は岩魚釣り,冬は熊,羚羊を狩り,生涯を山で過ごす。営林署委嘱の山林見回りの仕事も兼ねての足跡は北アルプス全域におよぶ。複雑な谷の名称,方向,前後左右などを即答する精通ぶりで「黒部の谷という谷はすべてシナエムによって登られた」と古老は評した。華々しい記録は残っていないが,上高地の上条嘉門次と共に探検時代の北アを代表する山人といえよう。遺品は大町山岳博物館に展示されている。<参考文献>中村周一郎「黒部の主・遠山品右衛門」(『北アルプス開発誌』)
(武田文男)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報