母屋(おもや)に対して広く付属建物を小屋とよぶ。しかしときには、居住用以外の一般建物の呼称ともなっている。芝居小屋、祭り小屋、御籠(おこも)り小屋、船小屋、水車小屋、山小屋、普譜(ふしん)小屋などがそれで、芝居小屋を除き、概して簡略な建物をさすが、この場合、建物の構造および仕上げに関する定義はなく、習慣的な呼称である。このほか、屋根と天井裏、および小屋組みの略称としても用いる。付属建物でも、かならずしも屋敷内にあるとは限らない。対馬(つしま)や志摩その他の地方では、衣類や穀類を収納する小屋を、居住地から隔離して、棟(むね)続きに集団的に建てることもある。
屋敷内の建物としては、牛小屋、馬小屋、木小屋、漬物小屋、堆肥(たいひ)小屋、灰小屋、糠(ぬか)小屋など、とくに用途別によぶものもあるが、土蔵を除き、納屋(なや)や作業場などを含めて、すべて小屋とよんで区別しないこともある。そのほか特殊なものとして、ヒゴヤとか不浄小屋とよぶ建物もある。これは月経や出産を不浄とし、その期間の女を火を別にして住まわせるもので、屋敷から離して、耕地の中などに建てたり、ときには地域共有の産(うぶ)小屋を建てたりする。忌み明けには、海水や河水で身を清め、浄火で沸かした茶を飲んでからでないと、家に入れない。最近までこの風習は残っていた。建物を新築する際に、まず建てられるのが作事(さくじ)小屋である。一種の物忌みを意味した神聖な場所とされ、神社建築の場合など、棟梁(とうりょう)は精進潔斎(しょうじんけっさい)をしたうえで小屋入りをした。
[竹内芳太郎]
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…一時的使用のために建てた小屋のことであるが,なかには古い思想・信仰の面影をとどめたものも多い。臨時の作業や材料保管のために小屋を建てるのはふつうのことであるが,山間地の山仕事・焼畑などのための山小屋・出作り小屋となると数ヵ月にわたる生活の場となる。…
…〈たや〉とよばれる建物は多屋とも書かれ,その内容はさまざまである。農民が田畑の番をするための小屋,山間地など遠距離にある田畑への出作り期間中の居住用に建てた小屋,また出産の際の産小屋,月経期間中の女性が忌み籠る小屋,喪に服するための忌小屋など,主屋と離れた別棟で,とくに建てられた小屋のこともいう。さらに所領が分散している場合,領主がこれらを管理するために置く施設も〈たや〉といい,地名にもなっている。…
…本来は兵隊のための宿舎,とくに駐屯兵のための細長い宿舎を意味する。それが転じて,火災や地震,水害,あるいは戦争などで,家屋が焼けたり破壊されたりした際に,ありあわせの材料を用いて作った一時しのぎのための小屋を指すようになり,さらには,比喩的に粗末な住宅一般をも意味するようになった。このことばが一般化したのは,1923年9月1日に起こった関東大震災で瓦礫(がれき)の山と化した東京の都心に,人々が崩壊家屋の廃材などを組み合わせて建てた粗末な小家屋をバラックと呼ぶようになってからである。…
…屋敷を名請けした百姓が役人,役家,役儀之家,公事屋(くじや)などと呼ばれて夫役負担者とされ,弱小農民は田畠だけを名請けして屋敷の登録をうけず,夫役の負担をまぬがれていた。 検地帳に登録された屋敷は,その多くが屋敷囲いの内部に母屋(おもや)とともに小屋,門屋(かどや),隠居屋などを備え,小屋,門屋,隠居屋には主家の庇護・支配を受ける弱小農民(自立過程の小農)が起居し,母屋には主家が住いした。小屋住み,門屋住い,隠居身分などの弱小農民が家族をもち,その生計が主家のそれから一応独立分離している場合でも,家数人馬改帳(いえかずじんばあらためちよう)(夫役徴集の基礎帳簿)では,1屋敷の内部の生活は1竈(かまど)として把握され,屋敷囲いの内に住む弱小農民の家族は主家の家族に含まれるものとして主家に一括された。…
※「小屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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