日本大百科全書(ニッポニカ) 「酔いどれ草の仲買人」の意味・わかりやすい解説
酔いどれ草の仲買人
よいどれぐさのなかがいにん
The Sot-Weed Factor
アメリカの作家ジョン・バースの長編小説。1960年発表。17世紀末から18世紀初めにかけて実在した詩人エベニーザー・クックが、北アメリカにおけるイギリスの植民地メリーランドに赴き、『イリアッド』ならぬ叙事詩『メリーランディアッド』を物しようとして幾多の危険に遭遇し、結局は『酔いどれ草の仲買人』なる風刺詩を書くに至る顛末(てんまつ)が主筋。これに副筋としてクックの元家庭教師がさまざまな仮面をかぶって狂言回しをつとめながら自分の出生の秘密を探る話が絡み、さらに主人公が出会う人物たちの語りや過去の記録が古今東西のさまざまな文学伝統の衣装をまとって入り込む。作者は当時の政治、経済、風俗の実際に準拠しつつ、奔放な想像力を駆使して壮大な文学の万華鏡をこしらえあげたといえようか。17世紀末風の古めかしい文体ながら、無垢(むく)を善、経験を悪とする解釈に異を唱え、斬新(ざんしん)なアメリカ批判にもなっている。
[國重純二]
『野崎孝訳『酔いどれ草の仲買人』ⅠⅡ(1979・集英社)』