酔いどれ草の仲買人(読み)よいどれぐさのなかがいにん(その他表記)The Sot-Weed Factor

日本大百科全書(ニッポニカ) 「酔いどれ草の仲買人」の意味・わかりやすい解説

酔いどれ草の仲買人
よいどれぐさのなかがいにん
The Sot-Weed Factor

アメリカの作家ジョン・バース長編小説。1960年発表。17世紀末から18世紀初めにかけて実在した詩人エベニーザー・クックが、北アメリカにおけるイギリスの植民地メリーランドに赴き、『イリアッド』ならぬ叙事詩『メリーランディアッド』を物しようとして幾多の危険に遭遇し、結局は『酔いどれ草の仲買人』なる風刺詩を書くに至る顛末(てんまつ)が主筋。これに副筋としてクックの元家庭教師がさまざまな仮面をかぶって狂言回しをつとめながら自分の出生の秘密を探る話が絡み、さらに主人公が出会う人物たちの語りや過去の記録が古今東西のさまざまな文学伝統の衣装をまとって入り込む。作者は当時の政治、経済、風俗の実際に準拠しつつ、奔放な想像力を駆使して壮大な文学の万華鏡をこしらえあげたといえようか。17世紀末風の古めかしい文体ながら、無垢(むく)を善、経験を悪とする解釈に異を唱え、斬新(ざんしん)なアメリカ批判にもなっている。

[國重純二]

『野崎孝訳『酔いどれ草の仲買人』ⅠⅡ(1979・集英社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の酔いどれ草の仲買人の言及

【バース】より

…在学中からの小説修業は《水上オペラ》(1956)に結実するが,これは次作《旅路の果て》(1958)と共に虚無思想を小説化した作品。理性で捕らえきれぬ現実の不条理性を把握定着させようとする彼の工夫は,14の作品を集めた《びっくりハウスの迷子》(1968)に集約されているが,植民史を下敷きにしたピカレスク的大作《酔いどれ草の仲買人》(1960)も,技巧の限りを凝らした《山羊少年ジャイルズ》(1966)や《キマイラ》(1972),《レターズ》(1979)も,彼の見定めた現実の姿を小説の形に形象化しようとする力業(トゥール・ド・フォルス)の結果である。ブラック・ユーモアとかポスト・モダニズムとかいう呼称はその力業の特色を語るために評家が貼ったレッテルにほかならない。…

※「酔いどれ草の仲買人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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